Vol.20



    ほんものの思考力を育てる教室

       YSFHのサイエンスリテラシー


           横浜市立サイエンスフロンティア高等学校

                   菅 聖子編


              ウェッジ  1300円(外税)



                       ”はじめに”から

           横浜サイエンスフロンティア高等学校  校長  栗原峰夫



日本では珍しい理数科に特化した公立高校として、この間、様々な試行錯誤を続けてきました。
中でも
「サイエンスリテラシー(以下SL)」への取り組みは、外部の科学技術顧問の方々にサポ
ートしていただきながら、教員、生徒と共に多くの時間とエネルギーを費やし、ひとつの形を作り
上げてくることができたと思っています。

SLは、本校カリキュラムの基軸となる最も重要な教科です。
常任スーパーアドバイザーである和田昭允先生の、
「サイエンスは基礎だけではダメ。そこから
にどんな先端技術があるのか、ほんものを見せることが重要だ」
という考えのもと、この新しい
教科を作ることがスタートしました。生徒たちに、ほんものにふれてもらうためにはどうすればよ
いだろうか。開校前から横浜市立大学の先生方と熱い議論を重ねました。

1、2年生の全員が必修のSLTとSLUは、週2時間の「総合的な学習の時間」を利用する形で
スタートし、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定後、教科として認められました。SL
Tでは外部の方に多くの講座を受け持っていただき、SLUでは助言や指導を受けながら生徒
自身が探究を深めます。
理科と英語を融合させたプログラムも重視し、最終的には自分の研究
を日本語と英語で発表し、人に伝えていくことを目標にしました。
  
                          中略

実際、生徒たちにとってSLは、難行苦行です。自分でテーマを決めることも、個人で研究を進め
ることも、人前での発表も、たやすいことではありません。1学年240人全員が取り組むのです
から、生徒たちの中にも温度差があります。熱心に頑張る生徒もいれば、なかなかテーマが決ま
らず進むことができない生徒もいる。しかし、一人ひとりの力量に差があっても、決して洗練され
ていなくても、とにかく
全員がやりとげる。それが、私たちの学校の誇るべきところだと考えていま
す。



                       
  序章

                 
サイエンスリテラシーとは何か?


「サイエンスリテラシー」は、横浜サイエンスフロンティア高校(以下YSFH)で最も大切にされてい
る教科だ。といっても、一般の高校にはないカリキュラムだし、タイトルだけではどんな教科なの
か想像し難い。

そもそも「リテラシー」という言葉は、読み書き能力、知識能力、応用力などを表す。YSFHのサ
イエンスリテラシーは、
先端科学の知識を得研究の技能と論理的な思考を習得し、英語を含
めた言葉によるコミュニケーションを通して、
伝える力を身につける時間だ。

具体的にはどのような授業が行われているのだろうか。まずは、YSFHの学校案内に記された
文章を紹介しよう。



 
「なぜ」を育てるプログラム Science Literacy (サイエンスリテラシー)

「なぜ」をそのまま終わらせず、課題をしっかりつかみ、論理的に研究し、さらにその成果を相手
にわかりやすく発表する。このような研究活動の基本となる力を4つのステップで育てます。


            
ステップ1  研究基礎    科学的思考力の育成

大学教員・研究者による講義、グループ研究、英語によるプレゼンテーション


            
ステップ2  先端科学実験

生命科学・環境化学・ナノテク材料 物理・情報通信 数理・地球科学などの5分野


            
ステップ3  課題研究ゼミ  ゼミによるテーマ設定・探究活動

大学研究室との連携・調査研究・中間報告・研究成果のまとめ


            
ステップ4 研究発表会

ポスターセッション・校内研究発表・海外研修での発表・優秀研究発表



YSFHがほかの普通校と違うのは、最先端の実験設備や検査機器がそろっていることだ。それ
らの充実した設備を使って研究に打ち込む生徒も多い。

教員に求められるのは、生徒が望む材料をそろえることや、少しのアドバイスをすること。そして
、研究がうまくいかなくても、生徒があきらめないようにすること。あきらめても、次を考える根気
を引き出すことを大切にしています。

生徒たちは夏休み返上で研究を重ね、ある程度の結論を導き出す。そして9月には個々に資料
を作成して中間発表会が、10月には英文資料を携えてのマレーシア研修旅行が行われる。



           
自ら研究を深める「ラボラトリーノート」

サイエンスリテラシーでは、一人ひとりが
「ラボラトリーノート」をつけている。SLTでは、講義で
学んだことを記録したり、実験のスケッチをしたり、データを記入したりする。SLUに進んで各自
の研究をスタートさせてからは、さらにノートが重要な意味を持ってくる。

ラボラトリーノートは、普通のノートではなく、研究者が使うものを使用する。各ページの上部は
「研究プロジェクト」や「サブジェクト」を記入するようになっており、末尾には「発明者」「記入者」
「証人」がサインする欄がある。つまり、
自分でつけるだけでなく他人に目を通してもらうノートだ。

特別科学技術顧問の小島謙一は、ノートの重要性について語る。
「自然科学の研究を進めていく場合、
ノートをつけていないと、自分で何を考えたのか、どうして
そういうことをやったのか、あとで曖昧になってしまうんです。







                          続く 








  Vol.21   



 宇宙は何でできているのか

素粒子物理学で解く宇宙の謎



東京大学 数物連携宇宙研究機構長  村山 斉(ひとし)



幻冬舎新書  800円(外税)


 


                      筆者紹介

 1964年  誕生

 1986年  東京大学理学部卒業

 1991年  東京大学・大学院博士課程修了 専門は素粒子物理学

 2000年  東北大学助手を経て、カリフォルニア大学バークレイ校教授

 2002年  西宮湯川記念賞受賞

 2007年  東京大学数物(数学・物理)連携宇宙機構 [IPMU] の初代機構長

      主な研究テーマ  超対称性理論・ニュートリノ・初期宇宙・加速器実験の現象論



昨年刊行された、著書「宇宙は何で出来ているか」は、累計24万部が売られ、科学書としては
異例のベストセラーになりました。

IPMUの本部は千葉県柏市の東大柏キャンパスにあり、そこでは世界から集まった数学者、物
理学者、天文学者が集まり、「宇宙はどう生まれたか?」「宇宙は何で出来ているのか?」という
素朴な、しかし根源的な問いに対して日夜、研究を続けています。



                     
  背表紙から

物質を作る最小単位である素粒子。誕生直後の宇宙は、素粒子が原子にならない状態でバラ
バラに飛び交う、高温高圧の火の玉だった。だから、素粒子の種類や素粒子に働く力の法則が
分かれば宇宙の成り立ちが分かるし、逆に、宇宙の現象を観測することで素粒子の謎も明らか
になる。

本書は、素粒子物理学の基本中の基本をやさしくかみくだきながら、「宇宙はどう始まったのか」
「私たちはなぜ存在するのか」「宇宙はこれからどうなるのか」という人類永遠の疑問に挑む、限
りなく小さくて大きな物語です。





  序章   ものすごく小さくて大きな世界

  第1章  宇宙は何でできているのか?

  第2章  究極の素粒子を探せ!

  第3章  「4つの力」の謎を解く ー 重力・電磁気力

  第4章  湯川理論から小林・益川理論へ ー 強い力・弱い力

  第5章  暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎




                       あとがきから(抜粋)


昔は宇宙の中心だと思われていた地球も、実は太陽のまわりを回る岩のかたまりの一つで、しか
も太陽は銀河系にある何千個というごくありふれた星の一つにしかすぎません。そして宇宙の中に
は同じような銀河が何億個も見つかっています。

そして何かがわかると、また新しい謎が登場します。宇宙の中で、私たちが理解できた原子は
4.4
にすぎません。宇宙のエネルギーの23%を占める暗黒物質は星や銀河ができるもとであり、宇
宙が生まれて
100億分の1秒後にできた未知の素粒子だと考えられています。

これが理解できれば、宇宙ができたばかりの様子が解明できるだろうと期待して、世界の科学者は
、地下に潜ったり、山手線くらい大きな加速器を作ったりして研究を続けています。

また、宇宙のエネルギーの
73%はもっと得体の知れない暗黒エネルギーで、「見えない力」で宇宙
の膨張を後押しして膨張をどんどん加速しています。宇宙が大きくなっても薄まらないこの不思議な
エネルギーは、宇宙に終わりがあるかどうか、宇宙の運命を握っている鍵です。

日本が誇る直径8.2メートルの巨大な鏡を持つ
すばる望遠鏡に新しい装置を取り付けて、宇宙の
膨張の歴史を精密に測り、将来を予測する観測計画を進めているところです。

IPMUではこうした宇宙の大きな謎に迫るため、数学者、物理学者、天文学者が集まって日々がや
がやと新しいアイディアを考えています。いまはまさに「革命前夜」といった雰囲気が漂っています。


この本を読んでわくわくしてくださった読者は、ぜひ素粒子や宇宙の本を読み、さらに知識を深めて
いただければ幸いです。IPMUでは一般向けの講演会、サイエンス・カフェ等でこれからも科学の
最先端の情報を発信していくつもりです。

ウェブサイトの、http://www.ipmu.jp/ja や、非公式なブログ http://ipmu.exblog.jp/ もときどき
ご覧ください。

一方、「こんなことを調べて一体何の役に立つんだ?」と疑問に思われた方もいると思います。実は
文部科学省や財務省、また一般の方々から同じような質問を受けることがありますが、いつもこの
ように答えています。
「日本を豊かにするためです」と。

「豊か」という言葉には経済的な意味もありますが、心、精神、文化の豊かさも含んでいます。人生
の半分近くを外国で暮らした私から見ると、日本はこうした広い意味での「豊かさ」をとても大事に
する国です。これからもそうであってほしいですね。

宇宙や自然の成り立ちを根本から分かりたいという気持ちは人類に共通のテーマです。日本がこ
の大きな謎に取り組めるよう、皆さんの支援をお願いしつつ、私たち研究者も毎日頑張っていこう
と思います。応援をお願いいたします。
 


 
朝日新聞より

      平成23年5月21日(土)  朝日新聞・「フロントランナー」より抜粋


    「この宇宙でただ一人、君たちに”反物質”の話ができる人が来てくれたよ」


米国のある子供向け講演会でこう紹介された。子供から大人まで、聞く者をわくわくさせる宇宙や
素粒子の語り手として、米国でも広く知られているのだ。

宇宙誕生の鍵を握る反物質について、風船の実験も交えながら滑らかな英語で30分語り、子供
たちから質問攻めにあった。

米国暮らしが長く、日本で名前が知られるようになったのは最近のこと。ジーパン姿の若手研究
者、と見えて、本職は東京大学の数物連携宇宙機構(IPMU)といういかめしい名前の組織の機
構長だ。米国のカリフォルニア大学バークレイ校で、36歳で就任して以来、物理学教授も務める


1年に30回は日米を往復しながら、自らのテーマである「超対称性」理論の研究や教育、研究所
の運営、そして宇宙の語り部を務める。

IPMUでは、毎日午後3時、チャイムが鳴る。研究者たちが吹き抜けのホールに集まってくる。
飲み物やお菓子を手に、あちこちに議論の輪ができる。ほぼ半分は外国人だ。

自由な議論をち、米国の研究所でおなじみのスタイルを持ち込んだ。途中で抜ける人もいるが、
多くはたっぷり1時間話し続ける。


分野を越え、国境を越え、科学者と市民の間の壁も越える。まさに新しい研究所の理念を体現す
るトップといっていい。

「業績はもちろん、世界中の研究者と広く話せて、新しいことに挑戦できる若い人、となると、ほか
に適任者はいなかった」と現職への就任を米国まで口説きに行った相原博昭東大教授はいう。

当時43歳の若さ、東大にとっては型破りの人事だった。米国と同じ給料にしたら、東大総長より
高給と話題にもなった。東大を変える起爆剤としての期待もかかる。






 Vol.22


 科学の扉をノックする


小川洋子   


集英社文庫   475円(外税)


 


                         著者紹介 


 1962年 岡山県生まれ

 早稲田大学第一文学部卒業

 991年 第104回芥川賞受賞

 2004年 読売文学賞、第1回本屋大賞受賞

 2006年 谷崎潤一郎賞受賞


子供の頃から科学の記事を愛読していた筆者が、宇宙、鉱物、遺伝子など、多様な分野の
スペシャリスト7人を取材した内容を紹介した本です。

それぞれの科学者たちは、「わからない」ことを見つめ、理屈や常識を越えた感性を使い、
世界の謎を一つ一つ解いてきました。彼らと筆者の対話の中には、”気づき”が満載されて
います、ものの見方が少し変わる、科学界への入門書です。



 
第1章  宇宙を知ることは自分を知ること

       渡部潤一さんと国立天文台にて



 
第2章  鉱物は大地の芸術家

       堀秀道さんと鉱物科学研究所にて



 
第3章  命の源”サムシング・グレート”

       村上和雄さんと山の上ホテルにて



 
第4章  微小な世界を映し出す巨大な目

       古宮聴さんとスプリングエイトにて



 
第5章  人間味あふれる愛すべき生物、粘菌

       竹内郁夫さんと竹内邸にて



 
第6章  平等に生命をいとおしむ学問”遺体科学”

       遠藤秀紀さんと国立博物館分館にて


       
 
第7章  肉体と感覚、この矛盾に挑む

       続木敏之さんと甲子園球場にて







 Vol.23


        今こそ、エネルギーシフト

    
 原発と自然エネルギーと私達の暮らし



                   飯田 哲也

                   鎌仲 ひとみ



          岩波ブックレット   500円(外税


 

                                                                             
                       本文から抜粋




            自然エネルギーの可能性とリスク分散効果


今後は、一カ所に巨大な発電センターをつくって、そこがだめになると電力供給が途絶えてしまう、
というようなエネルギーの中央集権的なあり方自体を見直さなければなりません。

今回、あまり注目されていませんが、風力発電は地震にも津波にもまったくダメージを受けません
でした。仮にいくつかの風力や太陽光の発電施設に打撃があったとしても、自然エネルギーは小
規模分散型で数多く全国に散らばるので、日本全国から見ればほとんどダメージはない。

一方で、原発のような大規模一極集中型は、システムとしては極めて脆弱であることが、今回はっ
きりしました。これを機に、小規模分散型の自然エネルギーへの転換を、真剣に考える必要があ
ります。






             成長市場としての自然エネルギー産業



世界全体で見ると、風力発電は毎年30パーセントずつ市場を拡大しており、2010年には原子力
発電の半分に当たる2億キロワット弱に達し、あと3〜5年で原子力の3.8億キロワットをほぼ追
い越すだろうと言われています。

日本の場合、過去10年は完全に「失われた10年」であり、0.4パーセントから0.7パーセントへ
の微増にとどまっているのですが、これからの10年はドイツと同じように水力の10パーセントを
出発点として、自然エネルギーで30パーセントを供給することはけっして絵空事ではなく、実現可
能性のある数字です。


いま200万キロワットの風力を400万キロワットに増やし、太陽光で8000万キロワット、それに
地熱と小水力とバイオマスを加えれば、その目標に届きます。


あとは省エネ・節電です。ただし、今、緊急に実施してきた節電は主に「我慢の節電」だったのです
が、これから加速する必要があるのは、寒くもなく暗くもなく貧しくもならない「快適な節電」なので
す。

そうした「快適な節電」に意識が切り替われば、十分に対応できます。今の時点でもすでに10パー
セント以上節電できているわけですから、20パーセントは減らせるでしょう。家庭用の電気製品を

、一番エネルギー効率のいいものに替えるだけでも、消費電力を4分の1に減らせるのです。不可
能な数字ではないでしょう?

この自然エネルギーと「快適な節電」の二つで、既存電力の供給は、2020年までに半分で済むこ
とになります。






                  スウェーデンから学べること


                         


スウェーデンは1980年に国民投票で脱原発を決め、2010年までにすべての原発を撤廃すると
いう予定でしたが、2008年には現実的ではないということで路線が変更されました。しかし、原発
をこれ以上増やさない、そして一方で風力発電を大々的に増やし、原発三基分に相当する風力発
電を開発することが決定されていました。

原発を持っているスウェーデン最大の電力会社、バッテンフォール社自らのホームページに「政府
に再生可能エネルギーを増やすように」呼びかけてくださいと書いてあったり、風力やバイオマス
の電源を選択して電気を買えるようなサービスをしたりもしている。

消費者が選択することで、社会がより持続可能なエネルギーを増やしていくような仕組みが生きて
いるのです。ドイツは全量買取制度を有効活用して風力発電に市場を大幅に拡大しました。目下、
風力発電で世界一のシェアを持ち、そのおかげで新規の雇用が30万人も増えたのは有名な話で
す。







                       私達が選択する


これまでは誰が政策を決め、誰が原発を運用し、誰が責任をとるのか、非常に曖昧なままに許さ
れてきた。そこには民主主義がなく、市民グループも途方にくれて、自分たちの無力感に苛まれて
きた、というのが現在までの道のりです。

トップにある立場の方は、何が被害を拡大しているのか、実害を及ぼしているのか
どこに欠陥が
あるのかということをきちんと知らせたうえでどの方向に向かって転換していくかという具体的な
提案が必要です。

また市民の力で状況を塗り替えていかないといけない。これは私たち自身でやっていくべきことだ
と思います。





 Vol.24


     サ・ランドール

異次元は存在する


     
 リサ・ランドール+ 若田光一

      NHK出版  950円(外税)


 


                      筆者紹介


1962年生まれ。ハーバード大学卒業。専門は
素粒子物理学、ひも理論、宇宙論
1999年、目には見えない5次元世界の存在によって理論物理学の難問を解決する
方法を論文に発表して一躍注目を集めた。

著書「ワープする宇宙〜5次元時空の謎を解く」は全米ベストセラーとなる。今、世界で
最も注目されている科学者の一人である。


この本は、ハーバード大学の研究室で、宇宙飛行士の若田光一さんがランドール博士
に異次元世界の存在と可能性について聞いたものをまとめてあります。


                  その一部です。


「5番目の世界とはいったい、どんな世界なのでしょうか?」

「わたしたちが暮らす縦・横・高さからなる
3次元空間に時間軸を加えたものが、4次元
時空
。そしてわたしが5次元という場合、その4次元にもうひとつの空間が加わった時
空を指しています。それは、わたしたちがこの地球で普段経験している3次元の生活
空間とは全く異なった、もうひとつの別世界があると考えています。

「そのもうひとつの別世界に、わたしたちはどうすれば行くことができるのでしょうか?」

「残念ながら、人間がこの5次元世界を感じることはできませんし、行くこともできません
。わたしたちの住むこの宇宙は、
3次元の膜のようなものの上に貼り付けられているか
らです。わたしたちはその3次元の膜にぴったりと張り付いていて、そこを飛び出して5
次元世界に入っていく方法はないのです。

しかし、たとえ直接出て行って検索できなくても、5次元世界は確かに存在していて、わ
たしたちの暮らす3次元世界に驚くような影響を与えている可能性があるのです。」








  Vol.25


          The Sense of Wonder

        センス・オブ・ワンダー


   
Rachel Carson レイチェル・カーソン

                   上遠 恵子 訳


                  新潮社 1400円(税別)



 


   
                         本文から抜粋



子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感動で満ち溢れています。残念なことに、
私たちの多くは、大人になる前に澄み切った洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶ
らせ、ある時は全く失ってしまいます。

もし私が、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力を持っているとしたら、世界中の子
どもに、生涯消えることのない
「センス・オブ・ワンダー 神秘さや不思議さに目を見張る感性」を授けてほ
しいとたのむでしょう。

この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、私たちが自然という力の源泉から遠ざかること、
つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。


子どもたちが出会う事実のひとつひとつが、やがて
知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情
緒や豊かな感受性は、この種子を育む肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。

美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知のものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛
嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたび呼び覚まされると、次はその対象となるものについて
もっ
と知りたい
と思うようになります。そのようにして見つけ出した知識は、しっかりと身に付きます。

消化する能力がまだ備わっていない子どもに、事実をうのみにさせるよりも、むしろ子どもが知りたがるよ
うな道を切り開いてやることの方がどんなに大切であるかわかりません。

たとえ、たったひとつの星の名前すら知らなくとも、子どもたちと一緒に宇宙の果てしない広さの中に心を
解き放ち、漂わせるといった体験を共有することはできます。そして、子どもと一緒に宇宙の美しさに酔い
ながら、今見ているものが持つ意味に思いを巡らし、驚嘆することもできるのです。

鳥の渡り、潮の満ち干、春を待つ固い蕾の中には、それ自体の美しさと同時に、
象徴的な美と神秘がかく
されています。自然が繰り返すリフレイン・・夜の次に朝が来て、冬が去れば春になるという確かさ・・の中
には、限りなく私たちを癒してくれる
何かがあるのです。

私は、スウェーデンの優れた海洋学者であるオットー・ぺテルソンのことをよく思い出します。彼は93歳で
世を去りましたが、最後まで彼のはつらつとした精神力は失われませんでした。

彼の息子もまた世界的に名の知れた海洋学者ですが、最近出版された著作の中で、彼の父親が、自分
の周りの世界で何か新しい発見や経験をするたびに、それをいかに楽しんでいたかを述べています。
「父はどうしようもないロマンチストでした。
生命と宇宙の神秘を限りなく愛していました」

オットー・ぺテルソンは、地球上の景色をもうそんなに長く楽しめないと悟った時、息子にこう語りました。
「死に臨んだ時、私の最期の瞬間を支えてくれるものは、この先に何があるのかという限りない好奇心だ
ろうね」と。

自然にふれるという終わりのない喜びは、決して科学者のものだけではありません。大地と海と空、そして
、そこに住む驚きに満ちた
生命の輝きのもとに身をおくすべての人が手に入れられるものなのです。





   Vol.26



  すごい 宇宙講義

高エネルギー加速器研究機構(KEK)


 多田 将(しょう)


イーストプレス 1800円+税


 


科学の特徴は「書き換えられる」ということです。例えば文学作品は、完成した後に世に出るため、書き換えられる
ことがありません。しかし、現在も進みつつあるこの世界に生きている我々は、すべての物語が終わった後に歴史を
見ているわけではありません。
今この瞬間も、科学の歴史は作られているのです。

この科学の世界では、本当に価値のある事は、知識なり情報なりの「結果」ではなく、それらをいかにして得たのかと
いう「
過程」の方なのです。

結果は書き換わってしまえばおしまいですが、過程はそうではありません。そこで得られた「考え方」や「やり方」は、
無駄になることなく、それらを踏まえて再び考えることで、新たな「考え方」や「やり方」に発展させることができます。

科学においては、
結果よりも過程の方が魅力的で貴重なのです。

                             続く