科学講演会 & サイエンスカフェ 


 
             2019年 9月21日(土)


        
 英語でサイエンスカフェ 「宇宙」 2019

 「こうして私たちは宇宙を理解したー加速器からダークマターへ」

              
会場  多摩六都科学館 イベントホール


           講師  Ipsita Saha     

            
Kavli IPMU特任研究員   専門は素粒子論


過去138億年の間に、我々の宇宙はとてつもない方法で進化を遂げ、その秘密の多くはまだ謎に包まれて
います。本講演では、宇宙の内実そして進化について、多様な角度から洞察を深めることを可能にした物理
を紹介します。
また、これまでになされたさまざまな発見への素粒子物理学の貢献や、宇宙の本質を理解するために行わ
れている研究について議論します。さらに、加速器実験での探査や、ダークマターに関連する探査など、
素粒子物理学の最前線についても触れていきます。

  ダークマターについて

空気が澄み周囲に光がない所で夜空を見上げると、煌めく星々や銀河で空一面がうめ尽くされます。しかし
これら眼に見える物質は宇宙全体のたった
4.9%にすぎません。残りは暗黒物質と呼ばれている未知
の素粒子で、それがダークマターです。ダークマターは、眼でみることはできませんが宇宙では
26.8%
を占めます。物質以外ではダークエネルギーが
68.3%で、宇宙膨張の役割を担っています。(図1)

                     


ダークマターがもしなかったら、今の宇宙は成り立たなかったと言われています。ビッグバン直後に生まれ
たダークマターはその巨大な重力で
陽子中性子などを引き寄せ、さらに恒星銀河銀河団をつくって
いきました。太陽や地球が今あるのもダークマターの力があったからです。よって私達が存在しているのも
ダークマターのおかげなのです。

初めてダークマターの存在を提唱したのは、アメリカ・カリフォルニア工科大学の
フリッツ・ツヴィッキー
です。1930年代、ツヴィッキーは地球から3.2億光年離れた
かみのけ座銀河団の質量を観測した時、
銀河
の動きから力学的に算出した質量が、銀河団の明るさを手掛かりに計算した質量よりもケタ違い大きく
なることを発見し、これは銀河団内に膨大な質量をもつ何か(ダークマター)があると考え論文を発表しまし
たが、当時の学会はこれを受け付けず、約40年にわたって日の目をみることはありませんでした。

ダークマターが確かに宇宙に存在することを証明したのは、アメリカ・カーネギー研究所に所属する
ヴェラ・
ルービン
という女性でした。彼女は、アンドロメダ銀河の回転という論文を1970年に発表し、観測結果に
基づき「この銀河には眼に見えない物質が大量に存在する」と主張しました。

彼女は、アンドロメダ銀河内の恒星の回転速度を観測し、
外縁部の星が中心部の星と同じスピードで動く
のは眼に見えない物質の強力な引力があるからだと主張し、他の数々の銀河でも同様な結果を示し、ダ
ークマターの存在を証明しました。

現在、ダークマターは銀河や銀河団に多く存在していて
「重力レンズ」などの現象を通じて、どのように分布
しているのかは、ほぼわかっています。そしてコンピューターシミュレーションでは、ダークマターは銀河の
中心部にいくほど集中して分布するという結果が得られています。しかし、観測から得られる実際の分布は
必ずしもそうではなく、
「矮小楕円銀河」と呼ばれる小さく暗い銀河では、ダークマターの分布は均一で僅か
に中心に向かって緩やかに増えるようになっています。

                     
ダークマターの分布
                   
                    小さな銀河   大きな銀河 credit by IPMU/NASA


その理由として提唱されているのは、もし、ダークマターが
相互作用しあって散乱するような性質を持って
いるとすれば、中心部に集中せず緩やかな分布になるということです。IPMUの
村山教授は、「ダークマ
ター粒子が特定の速度で衝突し
共鳴現象が起きると、粒子が互いに散乱される。この共鳴を基にしたダ
ークマターの解釈は謎の解明に最もシンプルな説明である。」と言っています。特定な速度というのは、
ゆっくりとした速度という意味で、重力が強い大きな銀河では、ダークマターは重力とのバランスをとるた
めに速く運動しなければならないので、共鳴現象は起きないと考えられています。




 講演内容

 Evidences for Dark Matter (ダークマターがある証拠)


(T) Galantic Rotation Curve (銀河の回転曲線)

銀河の回転曲線とは、銀河の中心に対して円盤部が示す回転運動のことを言います。常識的に考えれば、
外側にいけばいくほど回転スピードが遅くなるはずなのですが
前述の通り、外縁部でも中心部と同じスピ
ードで動いているということが観測され、これは
ダークマターの力によるものだという事が証明されました。

                      




(2) Gravitational Lensing  (重力レンズ)

アインシュタインの
一般相対性理論では、天体のつくる重力場のなかでは、光が曲がることが予言されてい
ました。光源となるはるか遠方の天体と観測者の間に強力な重力を及ぼす天体があれば、遠方の天体から
出た光は、地球までの間にあるその強力な
重力場で曲げられて観測者に届くことになります。

本来は届くないはずの光が、ダークマターの重力によって曲げられて、さらに引き伸ばされて、観測者に届く
ことになるのです。これは、ダークマターが光源となる天体と観測者の間にレンズの役割を果たしていると考
えられているため、このような現象を
「重力レンズ効果」と呼んでいます。


                   


3) Bullet Cluster (弾丸銀河団)

これは、
チャンドラX線観測衛星が、銀河団の衝突によって発生した衝撃波によって熱せられた高温ガスが
放出したX線を
赤紫色に、また、ハッブル宇宙望遠鏡の重力レンズ効果の観測によって分かった左右の暗
黒物質を
青色にした画像です。

これは、高速(弾丸)で衝突した銀河団の中心に減速した高温ガスが溜まり、分離されたもう一つの物質が
左右に分布されていることを意味しています。この分離したことが暗黒物質の存在を示しています。


                       



(4) Cosmic Microwave Background (宇宙マイクロ波背景放射)

宇宙マイクロ波背景放射
とは、宇宙のどの方向からも一様に降り注いでいる電磁波です。 1964年にアー
ノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンが、その存在を発見し、ノーベル物理学賞を受賞しました。宇宙マイ
クロ波背景放射はビッグバン直後に発生したと考えられています。そのため「宇宙最古の光」とも呼ばれて
います。

観測衛星
「プランク」によって、宇宙マイクロ波背景放射によるダークマターの分布図が作られ、その結果、
ダークマターが約
27%、ダークエネルギーが約68%の割合で宇宙を構成しているというデータを得ました。


                       



 
 Collider Searches (加速器実験による探索)


(1) Detectors and Collisions (検出器と衝突)

CERN
は、ダークマターに関連する素粒子を探すための新たな実験を計画中である事を明らかにしています
。実験の目的は
暗黒光子(ダークフォトン)やニュートラリーノ(超対称性粒子)などの仮説上の粒子を探すこ
とです。これらの粒子はダークマターに関連するとされ、2021年から2023年までの間にスタートする
予定となっています。

 CERNは、フランスとスイス・ジュネーブ郊外の国境にまたがる全長27km(山手線1周相当)の地下
100mトンネル内に設置された実験施設を運用しています。その施設は
LHC(大型ハドロン衝突型加速器)
といい、
陽子を光速の99.999997%まで加速させ、1秒間にトンネルを1万周させます。
そして加速させた陽子と陽子を衝突させて
超高温状態を生み出し、そこからとび出て来る未知の素粒子を
調べています。


                  


(2) Discovery of Higgus (ヒッグス粒子の発見)

ッグス粒子
の発見で、2012年、ピーター・ヒッグスがノーベル物理学賞を受賞しました。ヒッグス粒子とは
他の素粒子たちに質量を与えるものだと考えられています。宇宙誕生直後、ヒッグス粒子がまとわりつくと、
光速で飛び回っていた素粒子たちは動きづらくなってしまいました。この
動きにくさ質量だとされています。
現在の標準理論では、ヒッグス粒子とダークマターについて、ヒッグス粒子はすぐに崩壊する(別の素粒子に
変わること)のに対して、ダークマターは安定していて崩壊しないという違いがあります。

ダークマターは、もしかしたらLHCでつくられている可能性があります。しかし、数年前のLHCの能力では、
原理上、ダークマターを検出することは難しいとされていました。しかし、現在では加速器の能力を上げ、
衝突頻度も大幅に増え、将来、ダークマターそのものが検出できる可能性があるところまできています。


                       



(3) Standard Model Particle ⇒ No Dark Matter
   
 (標準模型に含まれる素粒子は、ダークマターではない)

標準モデル
の素粒子はヒッグス粒子を含めて17種類発見されています。ダークマターは、電磁気力や強い
力がはたらかないので、
相互作用しません。これでニュートリノ以外の素粒子は候補から除外されます。

残ったニュートリノは相互作用はしませんが、光に近いスピード(秒速30万km)で飛び回っていますので、
hot particle(熱い粒子)とよばれています。対してダークマターは銀河の回転スピード(秒速250km)と
ほぼ同程度と考えられるので、熱い粒子に対して、
cold particle(冷たい粒子)といわれています。

またニュートリノの
質量は極々小さいので、宇宙全体のニュートリノの量の試算から考えてもダークマターの力
には及びません。よってスピード(物理学では方向性を持ち合わせたスピードなので
velocityといいます)と
質量の違いから、今ではダークマターの候補とはなっていません。

 相互作用しないという事は、他の物質(素粒子)とは一切反応しないということです。実際、膨大な数の
ニュートリノやダークマターはこの瞬間、地球や私たちの身体を通り抜けているのです。もし作用していると
したら、私たちは痛みやかゆみなど何かしら感じているはずです。これは、実験で検出することを困難にし
ている理由でもあります。

        
           
credit wikipedia


ダークマターが素粒子として存在しているならば、加速器の性能アップにより、将来、ダークマターに相当する
重い新たな素粒子が発見されるかもしれません。
LHCILC(日本で建設予定の国際リニアコライダー)の
研究に期待したいところです。


                  
                    
ありがとうございました。






              2019年 4月13日(土)


 
20回 東京大学宇宙線研究所×カブリ数物連携宇宙研究機構
       合同一般講演会


           
宇宙の始まりについて考える

     〜原始ブラックホールとインフレーション宇宙〜

 
会場  アミュゼ柏クリスタルホール (千葉県柏市)
 共催: 柏市教育委員会  後援: 柏市



 
(1) 挨拶

 東京大学宇宙線研究所・所長 KAVLI IPMU 主任研究員
           (ニュートリノ物理学・天体素粒子物理学)

 
2015年 ノーベル物理学賞受賞 (ニュートリノ振動)

 
梶田隆章(かじた・たかあき)先生

          

 
(2) 講演 原始ブラックホール (宇宙最初の1秒間に生まれるブラックホール)

 
東京大学宇宙線研究所教授 川崎 雅裕(かわさき・まさひろ)先生

          

 
(3) 講演 宇宙が生まれた時  (原始重力波が残してくれたプレゼント)

 
KAVLI IPMU 特任准教授 菅井 肇(すがい・はじめ)先生

 
※ KAVLI IPMUとは、東京大学の研究機関で、2012年よりアメリカのカブリ財団の支援を受けています。正式名称は、「東京大学国際高等研究所・カブリ数物連携宇宙研究機構」KAVLI INSTITUTE FOR THE PHYSICS AND MATHEMATICS OF THE UNIVERSE といいます。



※ 冒頭の梶田先生のご挨拶にもありましたが、2019年4月10日、イベント・ホライズン・テレスコープを運用する国際協力プロジェクトチームが、世界6か所で同時に行われた記者会見において、巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功したことを発表しました。EHTコラボレーションが提供した画像を参考に説明を加えましたので、講演の内容を紹介する前に少し解説します。


         


ブラックホールの撮影に使用された望遠鏡は、APEX(チリ)、アルマ(チリ)、IRAM30m(スペイン)、ジェームズ・クラーク・マクスウェル(ハワイ)、サブミリ波干渉計(ハワイ)、サブミリ波(アリゾナ)、アルフォンソ・セラノ大型ミリ波(メキシコ)、南極点(南極)の8つです。これらの世界中に散らばる電波望遠鏡を同調させ、地球の自転を利用することで、地球サイズの望遠鏡を構成しました。

観測したのは、波長1.3mmの電波で、極めて高い解像度が得られ、それは月面に置いたゴルフボールを確認できることに値します。データは、ドイツの
マックスプランク研究所マサチューセッツ工科大学の観測所に設置されたスーパーコンピューターで処理され、その画像は理論的予測とほぼ一致していたので、発表につながりました。

今回撮影されたのは、乙女座銀河団の楕円銀河M87の中心に位置する
巨大ブラックホールです。このブラックホールは、地球から5500万光年(1光年は9兆4600億km)の距離にあり、その質量は太陽の65億倍(太陽の質量は2000兆トンの1兆倍で、地球の33万倍)と言われています。


ブラックホールという名前ですが、恒星と同じの形をしています。この球の表面をEvent horizon(事象の地平面)と呼んでいます。ブラックホールの近くを通過する光は、その重力に捕らえられて進路がゆがめられ、周囲をまわりながらやがてブラックホールに吸いこまれてしまいます。

しかし、ブラックホールからある距離よりも遠い場所を通過する光は、ブラックホールの重力により進行方向が曲げられ、本来地球に届くはずのない光も地球から観測されるようになります。そしてブラックホール周囲で曲げられた光は、地球からは明るい
リング状に観測され、ブラックホールはその中心に暗い影として投影されます。これがブラックホールシャドウで、その表面が事象の地平面です。観測された明るく光るリングの正体は、ブラックホールによって加熱された超高温プラズマガスからの放射で、理論的にこのプラズマはブラックホール近くでしか考えられないことから、ブラックホールがある事を裏付ける証拠となりました。


事象の地平面は、光がブラックホールの重力から逃れて外向きに脱出できるかどうかの境界面になります。いったんそれよりも内側に入ってしまうと、脱出速度が
光速(秒速30万km)を超えてしまいます。すると、光も含めてすべての物質は脱出不可能になり、あとはブラックホールの中心(特異点)に向かって引き込まれていくだけになります。したがって、事象の地平面の内部からは、光も物質も、何の信号もやってきません。そのため、私たちは事象の地平面の内部の様子(上の図の中心部分)を見ることはできません。



一般にブラックホールの大きさと言えば、事象の地平面の大きさを指します。そして事象の地平面の半径のことを
シュバルトシルト半径と言います。より大きな質量を持つ物質が圧縮されてできたブラックホールほど、シュバルトシルト半径も大きくなります。

例えば、
太陽を圧縮してブラックホールにした場合、シュバルトシルト半径は約3km地球を圧縮してブラックホールにした場合は、その半径は9mmです。今回、発表されたM87の超巨大ブラックホールの事象の地平面の大きさは400億kmと見積もられています。



 梶田先生のご挨拶


今日は、東京大学宇宙線研究所とカブリ数物連携宇宙研究機構の合同一般講演会「宇宙の始まりについて考える」にお集まりいただきましてどうもありがとうございます。東京大学が柏のキャンパスに初めて来たのは2000年です。その時、宇宙線研究所も一緒に来ました。それで、宇宙線研究所とは一体何をしている機関なのかという事を皆さんに知っていただくために一般講演会を始めました。そして2007年にカブリ数物連携宇宙研究機構が柏に出来ましたので、一緒にやることになりました。

本日は、天気もよく、それからかつ、今週ですね、何か「ブラックホールを見た」というニュースが大々的に流れていまして、今日のプログラムをよく見てみると、ブラックホールについての話があったりとか、原始重力波とか書いてあったりして、皆さん、思い出すのは原始重力波といえば、それを生み出したのはブラックホールでしたよね。

何かしら、今週のニュースと関係ある話が聞けるのかと来て下さったのではないかと思います。ともかく本日は、「宇宙の始まり」について皆さんと一緒に考え、楽しいひと時を過ごしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。


川崎先生の講義


原始ブラックホールとは、宇宙誕生の最初の1秒間、またはもっと短い間にできたものを言います。通常のブラックホールは、太陽質量の約30倍以上の恒星が寿命を迎え、最後に大爆発(超新星爆発)を起こし、その重力崩壊によってできます。

それに対して、原始ブラックホールは、宇宙誕生の際、密度の高い(重力の強い)ところと低い所ができて、その中で密度の高い部分が重力崩壊してできたと考られています。1971年、スチーブン・ホーキング博士が予言しました。

密度の差によって、さまざまな質量の原始ブラックホールが出来たと考えられています。これは最近非常に注目を浴びています。なぜかというとそれは、ライゴ(アメリカの重力波検出装置)に関係しているからです。2015年、人類史上初めて重力波がライゴによって検出されました。アインシュタイン一般相対性理論重力によって時間が進むのが遅くなったり、空間が曲げられたりする理論)によって予測されていましたが、アインシュタイン自身、検出は不可能だろうと考えていました。









        
         
2019年 3月9日(土)


ノーベル医学・生理学賞受賞記念 朝日賞創設90周年記念 講演会


 
   本庶佑(ほんじょ・たすく)先生と考える”独創性”とは

                


            会場:有楽町朝日ホール

            主催:朝日新聞社・日本対がん協会


(1) 基調講演 「オプジーボを生み出した基礎研究」

          京都大学特別教授  本庶 佑 先生


(2) パネルディスカッション 「基礎研究とイノベーション」

           本庶 佑 先生

          
         
  上山 隆大 先生 (内閣府総合研究所・イノベーション会議議員・
                       上智大学経済学部長・慶応大学教授)

          
 武部 貴則 先生 (東京医科歯科大学教授・横浜市立大学特別教授・
                        アメリカ・シンシナティ小児病院副センター長)

         
  山口 栄一 先生 (京都大学教授・NTT基礎研究所主幹・経団連
                         21世紀政策研究主幹・同志社大学教授)



     
【 ノーベル医学・生理学賞の対象となった業績 】


本庶さんは、体内の異物を攻撃する免疫細胞の表面に、免疫へブレーキをかけるスイッチ役
の分子
「PD−1」があることを発見しました。そしてこのはたらきを抑えて免疫細胞が「ガン」
への攻撃を続けさせる新しい治療を提案したことで、免疫が「ガン」を攻撃し続けるようにする
治療薬
「オプジーボ」(免疫チェックポイント阻害剤)の開発につながり、「ガン」治療に革命を
もたらしました。


             
               
      朝日新聞デジタルより




   
独創性と基礎研究の重要性についての
講演会と他の先生とのパネル討議です。
塾生が購入したサイン入りの書籍に
自分の名前を書いていただきました。


 本庶先生のお話(基調講演・パネルディスカッションからの一部)

(お話の中心は、オプジーボが出来るまでの過程とそのご苦労、また、大きな業績を成し遂げるには、基礎研究がいかに大切であるかということで、諸外国に比べて、現在の日本の状況が非常な危機状態にあり、これは、政府・民間企業・大学が意識改革・経済支援両方で共に真剣に取り組む必要があるという内容でした。)


PD−1の発見から承認まで22年という息の長い基礎研究がありましたが、そこから非常に少ない確率で有効な新薬の発展に繋がるのです。公的資金は主に基礎研究に投入すべきです。

イノベーションは、創造ではなく優れた技術や発見をどう活用するかです。しかしイノベーションだけではだめで、そこから創造をしていかなければ日本の将来は暗いものとなってしまいます。私が今最も憂慮しているのは若手の研究者が少ないということです。

そこで、私がお願いしたいのは、若い人が研究者になりたいと思うような環境を作ってほしいということです。(実際、日本では研究者の数が減っており、それが世界での論文引用数の伸び悩みにもつながっています。)

それには資金が必要です。私は大学院を出てポスドクを3年〜4年したら、
”自分の好きなことをやりなさい”と言って、じゅうぶんな研究資金をあげて、自由に創造力をはたらかせて研究させたらいいと思います。

若いうちに
”自分の好きな研究を思う存分できる”という環境は、それを目指す人を勇気づける大きな意味合いになるのではないでしょうか。それには資金が必要で、一つの研究が完結するためにはかなりの金額が必要になります。生命科学の分野では、給料以外に、最低、1000万円、2000万円という千万単位のお金がかかります。数百万という単位ではほど遠いのです。

私は、今回の業績でロイヤリティが入ったら、若い研究者達に毎年、数千万円を5年間支給したいと考えています。一つのプロジェクトを続けて研究し、完結できることを目指しています。彼らの創造性に期待しています。(本庶先生は、
”本庶佑有志基金”も設立されています。)


(学生からの質疑応答で) 高校生・大学生の皆さんに言います。学校の先生のいう事はいつも正しいとは限りません。
自分の頭で考え、判断し、発想することが大切です。(足元をしっかりと照らし、自分を拠り所とせよという教えです) また自分の所属場に囚われず、優れた指導者に就くという事も必要です。

大学の先生になる人は、教授になって金儲けしようと思っている人は1人もいません
。なぜ大学の先生になってみたいのかの答えは、人の言う事を聞かなくていいからです。上司からの命令に従ったり、人におもねる必要がありません。自分で考え、自分の創造性をはたらかせて好きな研究ができるからです。

ただ、大きな研究は1人ではできません。
今回の私の成果も多くの共同研究者に支えられ、また長い間にわたって支援してくれた政府資金・民間の基金によるところが多いです。またアメリカから帰国した時、アメリカのプライベートな財団から、当時(45年前)のレートで3000ドルという多額の援助を受けたことにはありがたく思っています。

            大変長い間、ご清聴いただきましてありがとうございました。








       2018年 1月21日(日)

 
第3回 Kavli IPMU(東大)・ELSI(東工大)合同講演会


                  「起源への問い」


 Kavli IPMU = Kavli Institute for the Physics and 
               Mathematics of  the  Universe

 カブリ財団協賛・数物連携宇宙研究機構=数学と物理の連携により宇宙の謎の解明に挑む研究機関・東京大学総長室直属

 ELSI = Earth Life Science Institute 
 東京工業大学 地球生命研究所 学術的な統合アプローチによって、「地球と生命の起源」を探るユニークな研究機関



                  


                    プログラム


 講演1  宇宙の始まりに迫る 

       Kavli IPMU主任研究員 名古屋大学大学院 理学研究科・研究科長・教授

       
杉山 直(すぎやま なおし)先生  専門:宇宙論(宇宙マイクロ波背景放射)

 
 講演2  地球外生命  地球中心主義からの解放 系外惑星・氷惑星

      
 東京工業大学 地球生命研究所・副所長・教授

       
井田 茂(いだ しげる)先生  専門:惑星形成論

 講演3 かたちが生まれるとき 芸術学から考えるリズムと身体

       東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院・准教授

       伊藤 亜紗(いとう あさ)先生
  専門:芸術学


              東京工業大学 蔵前会館 くらまえホール


宇宙の始まり 


(1)インフレーション


これから、宇宙138億年の歴史を30分間でお話しします。現在、「宇宙は無から誕生した」というのが、宇宙の始まりの有力なシナリオです。1980年代、かつて私が師事していた日本の佐藤勝彦博士とアメリカのアラン・グース博士は、「宇宙は、真空のエネルギーにより、生まれた直後に、すさまじい速度で巨大化した」という説を唱えました。この急膨張を、当時、佐藤博士は「指数関数的膨張」、グース博士は「インフレーション」と名付けました。(現在では、インフレーションが一般的に使われています)

インフレーションのモデルによれば、極小の宇宙は、誕生から10−36秒後から10−34秒後という一瞬の間に30倍に巨大化しました。分かりやすく言うと、ウィルスが、一瞬で、天の川銀河ほどの大きさになるくらいの膨張です。しかし、急膨張する前の宇宙は、10-28メートルの大きさだったので、1030倍すると、最初の宇宙は100メートル程度の大きさでしかありませんでした。

ところで、生まれたてすぐの宇宙は、その瞬間に時間・空間が存在しましたが、空間が「縦・横・高さ」の3つの次元ではなく、あと6個も余分な次元がありました。時間を入れないと、生まれたての宇宙は
9次元の空間だったのです。その空間に浮かんでいたのは「ひも」です。このひもの振動が後に素粒子を生み出します。(超ひも理論)

さて、現在、
NASA(アメリカ航空宇宙局)や、COBE(コービー)衛星・WMAP(ダブリューマップ)衛星の観測では、インフレ―ション理論を支持するデータ(インフレーションによって引き延ばされてできた宇宙の凸凹を詳細に描き出してみせたこと)が得られています。また、不思議なことですが、インフレーションを引き起こしたエネルギーには、宇宙の体積が増えても密度が薄まらないという特殊な性質があります。体積が増えると、その分エネルギーも増え、その結果、宇宙の体積は10倍の10倍、そのまた10倍と指数関数的に増加していきます。


          



(2)ビッグバン

宇宙を急膨張させたエネルギーが空間を急激に押し広げると、宇宙の温度は急激に下がり、真空の相転移が起こり、真空のエネルギー熱エネルギーに変わり、宇宙全体が火の玉になりました。これがビッグバンです。宇宙は火の玉として生まれたのではなく、真空のエネルギーが宇宙を広げたことにより熱エネルギーに変換され、火の玉になったということです。

これは、宇宙誕生から
10-27秒後ころの出来事で、このエネルギーが、物質のもととなるさまざまな素粒子に姿を変えていったと考えられています。その種類は100以上とも言われ、その中には「ダークマター」も含まれていたと考えられています。ダークマターはその重力によって物質を引き寄せ、後に恒星や銀河を生み出す原動力になります。

そして、インフレーションを引き起こしていたエネルギーがなくなると、宇宙は緩やかな膨張に変わります。この緩やかな膨張は現在も続いていると言われます。
ダークエネルギー」との関連性が考えられています。


          



(3)粒子と反粒子

宇宙誕生から、
10-10秒後のことです。粒子の相棒の反粒子が消え始めたのです。宇宙誕生の出発点とな-った「真空のゆらぎ」では、粒子と反粒子は、必ずペアで生まれていました。そして衝突すれば、ペアで消滅します。「対生成」「対消滅」と呼んでいます。

粒子は
「電荷」を持っています。質量など他の性質が全く同じで、電荷だけが反対になった粒子を「反粒子」と言います。例えば、実験室などの特殊な環境では、プラスの電気を帯びた陽子に対して、マイナスの電気を帯びた反陽子が存在します。同じようにプラスの電荷をもった陽電子も存在します。

ところが、宇宙誕生から
10-10秒後の時点で10億個の反粒子に対して、粒子が1個だけ多かったのです。対消滅した結果、粒子が1個だけ残ったのです。そして宇宙誕生4秒後には、すべての反粒子がなくなったと考えられています。

宇宙が灼熱状態にあった頃は、対生成と対消滅が同じ割合で起きていましたが、宇宙が膨張して温度が徐々に下がってくると、生成は起こらず、消滅ばかりが起こるようになります。このとき、もし粒子と反粒子が同数だったとすれば、宇宙から素粒子はなくなり、
元素も誕生しませんでした。

しかし、実際の宇宙では、どういうわけか、粒子が反粒子よりもわずかに多かったために、粒子だけが残りました。このとき生き残った粒子によって、
恒星・銀河、そしてずっと後に私たちが出来たのです。あなたが今、いるのは反粒子が消えたおかげなのです。反粒子は一体、どこに行ってしまったのでしょうか?


          



(4) 素粒子の海

宇宙誕生から
10-6秒後(100万分の1秒後)、宇宙の温度が数兆度あった状態では、原子の材料となる素粒子のクォークや、反クォーク電子陽電子がそれぞれ、バラバラの状態で激しく飛び交っていました。まさに混沌とした「素粒子の海」です。他にも光子(フォトン)・ニュートリノも混在していました。

そして、
10-5秒後(10万分の1秒後)には、あっという間に宇宙の温度は1兆度くらいに下がります。すると、宇宙は新しい転機を迎えます。温度が下がるにつれ、素粒子の動きが鈍くなり、クォークが3個ずつ結合して、陽子アップ2個ダウン1個 uud)と中性子ダウン2個アップ1個 udd)が誕生しました。

          


陽子と中性子は、
原子核の材料です。1秒後の新たな宇宙では、クォークの反粒子は消えてなくなり、陽子・中性子・電子・陽電子が飛び回っていました。1秒間という短い間に、宇宙は誕生し、原子の材料を生み出したのです。これが私たち研究者が考える宇宙創造から1秒までのシナリオです。また、電子の反粒子である陽電子は生き残っていましたが、4秒後にはこの陽電子も消えてなくなります。



(5) 宇宙の晴れ上がり

宇宙誕生から
3分後、宇宙が約10億度まで下がってきた時、バラバラに飛び交っていた陽子2個と中性子2個が結合してヘリウムの原子核ができました。陽子はそのままで水素の原子核になります。さらに温度が下がってくると、自由に飛び回っていた電子がついに水素とヘリウムの原子核につかまり、原子が誕生しました。原子ヘリウム原子ができたのです。


         
    黄色の粒子(素粒子)は電子です。原子核の周りを回っています。どこにいるかははっきりしませんが・・・


それは、宇宙誕生からしばらく経った
38万年後のことです。宇宙の温度はかなり下がり、2700度までになりました。原子が生まれると、「素粒子の海」のころに宇宙に存在していた”光子”(フォトン)が自由に行動できるようになりました。光子は粒でもありますので、電子や陽子など電荷をもつ粒子にはぶつかりやすいという性質があります。宇宙の温度が高い時代には、絶えず、周りの電荷をもつ粒子に行く手を阻まれ、真っ直ぐに進むことができませんでした。

しかし、電気的に中性である「原子」ができると、電子や陽子が単独で存在しなくなり、ぶつかる相手がいなくなりました。(
相互作用をしないといいます。ニュートリノダークマターも同様です)そのため、光子は真っ直ぐ進めるようになりました。よって私たちが観測できるのは、宇宙誕生から38万年後の世界です。この出来事は、あたかも霧が消えて、視界がはっきりしたことに例えて、「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。


         

通常の水素は、陽子と電子だけで中性子はありません。ただ中性子を1個持っている水素もあります。重水素(deuterium:デューテリウム)と言います。存在比率は、0.015%です。さらに中性子2個をもつ水素も存在します。3重水素(tritium:トリチウム)と呼んでいますが、存在比率は極々僅かです。このように、性質はほとんど変わらず、中性子の数が異なる原子を同位体(アイソトープ)と言います。同様に、ヘリウム原子核は通常、陽子と中性子が2個ずつですが、中性子が1個のヘリウムもいます。ヘリウム3(スリー)と呼んでいます。太陽の核融合反応の過程で生じています。 


直進するようになった光子は、宇宙の膨張とともに引き延ばされて、波長が長くなります。この波長の長い光が、
「宇宙マイクロ波背景放射」です。この宇宙マイクロ波背景放射を初めて発見したのが、アメリカの天文学者、アーノ・ペンジアスロバート・ウィルソンです。彼らは1978年にノーベル物理学賞を受賞しています。

では、宇宙マイクロ波背景放射は、138億年の長い間に宇宙空間が膨張した影響によって、どのくらい引き伸ばされたのでしょうか。宇宙空間は、晴れ上がりによって光が放たれた当時の
約1000倍に膨張したと考えられています。例えば波長が、0.001ミリメートル(1マイクロメートル)だった光(赤外線)は、空間の膨張によって1000倍に伸ばされて、1ミリメートル(1000マイクロメートル)の光となります。私たちはその光を観測しているのです。

宇宙マイクロ波背景放射を
電波を使って観測することで、138億年前の当時の温度を測ることができます。その温度は全天にわたって、ほぼ一様なのですが、人工衛星の観測から、場所によってほんの僅かな違いがあることが明らかになっています。その温度差は10万分の1ほどしかありませんが・・

さらに
温度のゆらぎ方にも小さい領域での細かいゆらぎから、広い領域にわたるゆらぎまでが存在することがわかっています。そしてこのゆらぎ方が、インフレーション理論によって予言されたものと一致しているのです。

                

        
上は観測衛星COBE(コービ―)下はWMAP(ダブリューマップ)による全天球の観測結果
           
WMAPの画像はより細かな構造が表現できています。30倍の解析力といわれています。
        
    赤の部分青の部分より温度が高い。 from NASA/WMAP Science Team

※ COBE (Cosmic Background Explorer) 宇宙背景放射探査機
WMAPWilkinson Microwave Anisontropy Probe) ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機


さらに、インフレーションの証拠として、宇宙マイクロ波背景放射の中にある 
”Bモード” という「渦巻き模様」の光を観測しようと観測するために、南極やチリ高地などに望遠鏡が設置され、観測が進められています。また、日本でもJAXAKEKが中心となり、宇宙マイクロ波背景放射を精密に観測できる人工衛星 ”LiteBIRD”(ライトバード)を2020年代に打ち上げる予定となっています。

Bモードとはどんな光なのでしょう?通常の光にはさまざまな振動方向の波が含まれています。しかし、何らかの原因によって、振動方向が偏った光が生じることがあります。
「偏光」(へんこう)と呼んでいます。

さて、インフレーションがおきる前の空間は、僅かにゆがんでいたと考えられています。その空間のゆがみがインフレーションによって引き伸ばされると、数十億光年という巨大なスケールのゆがみをもつ宇宙空間ができます。そのゆがみを
「原子重力波といい、それは周囲に波のように伝わっていきます。

その
原子重力波の通り道に沿って、宇宙マイクロ波背景放射に先ほどの「偏光」が生じると考えられています。そして複数の原子重力波が交差するところでは、偏光の渦巻き模様ができると予言されています。この光の渦巻き模様が、Bモードです。

        

Bモードが観測されれば、インフレーションがいつおこったのかなどの、より詳しい情報が得られるといわれています。






               2017年 10月21日(日)

         
東京大学理学部ホームカミングデイ 2017

            
理学のワンダーランド


               


                  
プログラム


  
 (1) 挨拶          研究課長・理学部長 武田 洋幸先生

   
(2) 隕(いん)石のお話  地球惑星環境学科
                    三河内 岳(みこうち たかし)先生


   
(3) 恐竜のお話      地球惑星環境学科
                    對比地 孝亘(ついひじ たかのぶ)先生



              東京大学本郷キャンパス 理学部1号館 小柴ホール




@ 隕石の大きさ

最大のものは、アフリカのナミビアの
「ホバ鉄隕石」で重さ60トンあります。直径が1mm以下のものは宇宙塵と言います。
アメリカの「メテオクレーター」は直径1.2kmもあります。これは、直径50cmの隕石が落ちて出来たと考えられています。


A 隕石は何で出来ているか?

地球と同じようなものでできていると考えられています。中心部は
で、表面は黒い薄皮で、これは表面が溶けたあとです。


B 隕石はいつできたか?

45〜46億年前で、地球が出来たときとほぼ同時期と考えられています。


C 隕石はどこで、いくつくらい見つかっているか?

地球全体では約60000個、日本では50個、見つかっています。最も多いのは
南極大陸で、約40000個発見されています。但し、標高3000m以上の山脈です。(ここではペンギンは見当たりません)常に強風が吹いて、真夏でも、最高気温がマイナス15℃です。次に多いのは、サハラ砂漠や中東の砂漠でそれぞれ10000個程度弱です。


          




 







               2016年 6月19日(日)

   
東京大学国際高等研究所:カブリ数物連携宇宙研究機構
          Kavli IPMU  一般講演会



 講演1 「4次元を超えるかもしれない宇宙」  向山信二(むこうやま しんじ)博士
                               
                             京都大学 基礎物理学研究所教授
                             Kavli IPMU客員上級科学研究員



 講演2 ダークマターがつなぐ宇宙・地球・生命  「ダークマターと恐竜絶滅」

             Dr.Lisa Randall (リサ・ランドール博士)

        
ハーバード大学 物理学教授  専門は素粒子物理学
          プリンストン大学&MIT(マサチューセッツ工科大学)でも終身在職権



              東京大学駒場キャンパス 21KOMCEE レクチャーホール
                                 


          (1) ダークマターと恐竜絶滅の関係


  


私たちが生存している太陽系は、銀河系の中心(太陽系の400万倍の質量を持つとされるブラック
ホール)を
2億年かけて1周しています。その銀河系は皆さんご存知の通り、中央(バルジ)が膨らん
だ円盤の形をしていますが、円盤の周りは円盤全体を覆うようにダークマターの
ハロー(大きな球状
をした袋のようなもの)が囲んでいます。(図では描いていません)

※ バルジとは英語で「ふくらみ」という意味です。ハローとは「天気の悪い日に月にかかる暈(かさ)
」や「聖人の背後に描かれる後光」を指す英語で、銀河の最も外側の勢力圏という意味になります。


さて、ここからがランドール博士の理論になります。ダークマターは通常、相互作用をしませんが、そ
れとは別に
相互作用をするダークマターが存在します。それが”ダークマターディスク”です。(図の
黒い影の部分) 銀河系の円盤部分の中に、もう一つの円盤(ダークマターで構成されている)が共
存しているのです。これを
DDDM(double disk dark matter)と言うそうです。
(名付け親はハーバード大学の同僚の教授)

「ダークマター粒子が陽子よりも重く、陽子と同じ温度だった場合、ダークマターディスクは、天の川
銀河の円盤よりも薄くなります(理由は省略)。ダークマターの質量が大きければ大きいほど、円盤
はさらに薄くなります。よってダークマターディスクは通常の円盤の中にすっぽりと入ってしまうので
す。

太陽系は、銀河の中心を公転していますが、同時に
上下運動もしています。(図の黄色い曲線)
そして
6600万年前、太陽系がダークマターディスクにさしかかった時、その影響で太陽系の外れ
の天体(彗星)が吹き飛ばされ、地球にぶつかったと考えられます。

3000万年くらいに一度、ダークマターディスクの領域に入っているかもしれません。ユカタン半島に
直径20kmくらいの大きなクレーターが残っています。秒速30kmくらいで落下したと思われますが
、地質調査の結果、これもその影響ではないかと考えることができます。

普通のダークマターハローとは相互作用の仕方が異なり、この領域は極めて密度が高くなっていま
す。太陽系がここを通過すると
ダークマターディスクの重力が作用し、太陽系に通常以上の引力が
かかり、太陽系外縁部の彗星をはじき飛ばし、それが方向転換し、地球に衝突し、その結果、地球
環境を激変させ、
恐竜絶滅につながったのではないかというのが私の考えです。



 


 







  ※ 講演会で言及された向山博士&Dr.Lisa Randall の説に関連する理論


                  
ブレーン(膜)宇宙


  

  
※ 時間の次元を加えると、私たちは4次元の時空となりますが、ここでは時間を入れない3次元として扱います。
   ※ 異次元は英語では、EXTRA DIMENSION (余剰次元)と言います。

私たちの住む世界は3次元世界の膜であるとすると、私たちは、その膜に貼りついた原子などの物
質によってつくられていると考えられます。5次元など高次元世界における3次元の膜は、バスルー
ムにおける
シャワーカーテンのようなもので、私たちや原子などの物質はそのシャワーカーテンに貼
りつけられている
水滴だと考えることができます。

しかし、その水滴がシャワーカーテンからバスルームに飛び出すことが出来ないように、私たちも5
次元や6次元などの高次元世界に飛び出すことは出来ないのです。また、私たちの存在する膜以
外にも膜は存在するかもしれません。そして他の3次元世界の膜には、
何か別の生き物が棲んで
いるかもしれない・・・ というふうに想像は広がっていきます。

ランドール博士の
「ワープする宇宙」という著書によると、二つのブレーンの間には異次元が広がっ
ていて、
重力だけはその空間を動くことができます。そしてその空間が大きく曲がって(ワープ)して
いると、他の3次元のブレーンでは大きな重力も、私たちのいるブレーンでは
、極々小さくなってし
まうということがあり得るのです。このように考えることで、宇宙を支配している ※
4つの力の中で
、重力だけが
極端に弱い理由が説明できるのではないかというのが彼女の理論です。

 
力が及ぼす範囲を同じスケールで比較した場合(強い力を1とする)

強い力  電磁気力   弱い力  重力
 1  0.01  10−5 (10のマイナス5乗) 10−40 (10のマイナス40乗)







                   
異次元とは何か?


 


高次元の世界の手がかりを得るためには、次元を1つ落として具体的にイメージするとよいかもし
れません。それを可能にしてくれる本があります。
「フラットランド」というとてもかわいい本です。
この本は19世紀末に、イギリスの数学者エドウィン・A・アボットによって書かれた小説です。

この本の中では、5次元や6次元などの高次元世界をどのように想像すればいいかが分かりやす
く紹介されています。例えば、もし丸い球がフラットランドを通過したら、フラットランドの人々は、
サイズが次第に大きくなり、そして次第に小さくなるような円盤を見ることになるでしょう。
(上図参照)

私たちが体験している3次元世界もフラットランドのようなもので、周りを触ることも感じることも
できない
5次元時空が取り巻いているのだと考えられます。





                  
異次元の証拠を求めて


  


陽子や電子・陽電子が高速度に近い状態で衝突した時、異次元にエネルギーとして生まれるのが
”カルツァ=クライン粒子”です。カルツァもクラインも5次元理論者で二人の名前から命名されまし
た。異次元に存在する粒子と考えられています。将来、LHCや日本(北上山地)での建設が期待さ
れている
ILC(国際リニアコライダー)で観測されるかもしれません。LHCでは、陽子どうし
衝突させますが、リニアコライダーの実験では、
電子陽電子(プラスの電荷を帯びた電子)を使
います。

この実験では、電子の集団と陽電子の集団をそれぞれ20kmほど加速させてぶつけます。収束さ
せて最後には
原子10個分くらいの大きさ(髪の毛の10000分の1)くらいまで絞ります。少しのズ
レも許されない精密性が要求されます。

リニアコライダーの実験では、電子と陽電子を衝突させてその前後でエネルギー収支が合わない
ケースを探していきます。
重力が異次元にエネルギーを持ち去って、エネルギーに差が出来るから
です。そしてぶつけるエネルギーを変化させながら、実験を行っていくと
宇宙が何次元なのかが分
かってきます。

   








                 
超ひも理論と異次元


現代の理論物理学者は、アインシュタインの
相対性理論と現代の量子力学を調和させて4つの力
(重力・電磁気力・強い力・弱い力)全てを統一する究極理論を探しています。そして多くの物理学
者は、それは「
超ひも理論」ではないかと考えています。

私たちが直接見ることのできない極々小さな「ひも」が、さまざまな振動をすることで、いろいろな粒
子のように振る舞うのです。
”閉じたひも””開いたひも”があり、開いたひもは膜に貼りつき、閉じ
たひもは、膜から離れることが出来ます。重力を伝えるのが閉じたひもだと考えられています。

一般相対性理論では、ブラックホールの中心部は限りなく収縮した結果、一次元的な特異(とくい)
点になり、数式で計算するとそこでは質量・エネルギーが、
∞(無限大)になってしまいます。(宇宙
誕生の※ビッグ・バンと同様です)無限大という値は、今の物理法則を破綻させてしまいます。
素粒
子の理論
と組み合わせてもこれは解消することが出来ませんでした。(ホーキング・パラドックス1)
※ 宇宙誕生のビッグバンの特異点は
「インフレーション理論」が解消してくれそうです。


その特異点を解消できるのが
「超ひも理論」です。超ひも理論では、ブラックホールの中心では、
たくさんのひもが集まり、膜を作っていると考えます。膜の上では自由に動くことができます。しか
し、その膜は
10次元で存在しているのです。それが、何回も折りたたまれて3次元では点として
認識されているのです。ブラックホールの底は異次元の世界が支配していて、またブレーンの動き
によって、エネルギー(熱)が発生しているのです。このDブレーンの存在は、
スティーヴン・ホーキ
ング博士
のブラックホール底での「謎の熱の発生」(ホーキング・パラドックス2)も説明することが
出来ます。
             





                        





            
ブラックホールの中心に位置するカラビ・ヤウ多様体

           
               
カラビ・ヤウ多様体 NHK 「神の数式」より

ブラックホールの中心の異次元に存在するとされる3次元の世界で表現された
「カラビ・ヤウ多様
体」
です。これが多数存在し、それぞれの中をDブレーンが移動していると考えられています。ブレ
ーンの中のひもも動いています。これが、私たちが認識できる3次元以外の空間です。

ではいったい、その残りの
6次元(7次元)の空間は、どこにあるのでしょうか?この問題について
の解答の一つが上のブレーンの図にある
「空間のコンパクト化」です。つまり、私たちが認識でき
ない残りの空間は、極々小さく私たちの目には見えないくらい、小さく折りたたまれ、または丸め込
まれてしまっているのです。よって、今、目の前にあってもわからない(見えない)のです。


               



                      to be continued


   
 向山教授に質問  ランドール教授に質問
   
 質疑応答 (わかりやすく丁寧な説明でした)  現在の物理学の最前線は超ひも理論です。





 








     2015年 3月22日(日) サイエンスカフェ 宇宙劇場・友の会

  
 「一般向け新番組試写会&皆既月食シミュレーション」

     
   藤沢市湘南台 こども館宇宙劇場(プラネタリウム)


   
湘南台 宇宙劇場 プラネタリウム  記念写真
   
 投影機  皆既月食シミュレーション
   
 オリオン座 M42星雲  かに星雲
   
 干潟星雲  アンドロメダ銀河(お隣の銀河です)
   
 プレアデス星団(すばる)  M42で星の赤ちゃんが誕生しています。









        2014年 7月6日(日) サイエンスカフェ宇宙2014


    第2回 「インフレーション理論、観測的実証への期待」

               東京  多摩六都科学館


         自然科学研究機構・Kavli IPMU 客員上級研究員

           
佐藤 勝彦(さとう かつひこ)先生


                 


みなさん、こんにちは。私は昨日まで岐阜県飛騨市の神岡鉱山にあるカミオカンデにいました。
大型低温
重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)の見学会に参加していたからです。重力波というのは
本日これからお話しする
「インフレーション」を証明するために非常に重要な証拠となります。


「インフレーション」と聞くと、みなさんは経済の言葉のように思われるかもしれませんが、これは
宇宙の誕生について説明する理論で、私やアメリカの物理学者、
アラン・グースらが1980年代
の始めに提唱したものです。

「ビッグバン」という言葉をご存じの方も多いと思いますが、宇宙物理学の研究が進むにつれ、
ビッグバン理論だけでは宇宙の始まりについて十分に説明しきれないことがわかってきました。

例えば、宇宙がなぜ
「火の玉」から始まったかについても答えることが出来ませんし、またビッ
グバン理論を押しすすめていくと、宇宙の始まりは
「特異点」という物理学の法則が破綻してし
まう一つの点に行き着いてしまいます。


私やグースらが提唱したインフレーション理論とは、おおまかに言えば歴然とした物理学の法則
によって宇宙創生を記述していこうという理論です。最初は突拍子もない理論という見方もあり
ましたが、今ではさまざまな観測結果によって、宇宙創生の標準理論として認知されるまでに
なりました。

さらにインフレーション理論によって、未来の宇宙や
マルチバース(宇宙は無数にある)などの
新しい宇宙論の考え方が提示されてきています。

超ひも理論(超弦理論)は、現在、力の統一理論として、一番可能性のある理論とされています
。超統一理論とは、重力・強い力・電磁気力・弱い力という4つの力を統一する理論で、長くその
完成が目指され、晩年の
アインシュタインも研究に没頭しました。


その究極の理論に最も近いといわれているのが、「超ひも理論」なのです。そこから描き出され
る宇宙像において今、多様な宇宙の存在が議論され始めています。ただし、そのひもは通常、
われわれがイメージする3次元空間にあるのではなく、10次元とか11元といった、縦・横・高さ
の他に
6つ7つの別の方向を持つ空間にあるというのです。

そして私たちが考えるいろいろな素粒子は、このひもの振動パターンのちがいによって説明でき
ると考えるわけです。こうした考え方から、1995年頃から「
膜宇宙」という考え方が出てきました
。超ひも理論では素粒子はひもだというのですが、、膜宇宙論は、そのひもは、端っこが膜宇宙
にくっついていると考えるのです。

但し、例外があって、重力を媒介する粒子は丸い輪になっていて、3次元の空間にくっついてい
ないため、
重力だけは、3次元の空間だけでなく、外側の区間にも働くというのです。重力だけは
異次元を移動できるのです。










2014年  1月25日  Kavli 数物連携宇宙機構(IPMU)


                 一般講演会



                宇宙の扉をノックする
      〜 Knocking on Heaven's  Door 〜

    
講師  Lisa Randall (リサ・ランドール)
          
アメリカ ハーバード大学 物理学教授
               


        
解説  村山 斉(ひとし)
              
IPMU 機構長
                  


             東京大学本郷キャンパス 小柴ホール


   
 東京大学 赤門  小柴ホール入り口
   
 Dr. Lisa Randall  Dr. Hitoshi Murayama
   
 今日の演題と同名の著書  重力だけが弱い理由の説明


 塾長解説

                異次元は存在する

        
「宇宙の謎を解くカギはRrane World(膜宇宙)」



「わたしたちの暮らす3次元の世界は、人間の目には見えない5次元世界に組み込まれている」・・・1999年、新たな異次元の概念を発表し、一躍世界の注目を集めたのが、リサ・ランドール博士です。 アメリカの雑誌「ニューズウィーク」は、2006年のキーパーソンにランドール博士を選びました。


博士はアメリカ・ハーバード大学で数式を使って宇宙物理学の法則を研究している理論物理学者です。「5次元世界は3次元世界の縦・横・高さに時間、そして5番目の次元方向への距離で表せる」という博士の数式は、現在、世界の物理学者たちの論文に最も引用されている理論のひとつです。

                  
          
  5次元=(縦+横+高さ−時間)+5次元方向への距離



                   
ランドール博士

わたしたちの研究グループでは、5次元や6次元などの高次元世界には「ブレーン」と呼ばれる膜のようなものが存在すると考えています。ブレーンとは、頭の中のbrain(脳)ではなく、membrane(膜)を短くしたものです。


残念ながら、人間が5次元世界を感じることはできませんし、行くこともできません。それはわたしたちの住むこの宇宙は、3次元の膜のようなものの上に貼り付けられているからです。

わたしたちはその3次元の膜に貼りついていて、そこを飛び出して5次元世界へ入っていく方法はないのです。しかし、たとえ直接出ていって探索はできなくても、5次元世界は確かに存在していて、わたしたちの暮らす3次元世界に驚くような影響を与えている可能性があるのです。

わたしたちは3次元に存在していますが、全てのものが3次元の膜に貼りついているわけではないのです。現在の物理学では、
重力エネルギーは時空を超えて自由に振る舞える、すなわち、3次元と5次元の世界の間を行き来できると考えられています。


                  

目に見ることも感じることもできない5次元世界の存在をわたしたちが確かめられる唯一の方法は、おそらく
重力を通じてというものでしょう。たとえば、重力の波動を検出する機械のようなものを宇宙に置いて、わたちたちの宇宙に届く重力の波を計測するのも一つの手段です。



ひも理論・ M理論 からブレーン宇宙論へ

「ひも理論」という言葉をきいたことがあるでしょうか?ひも理論によると粒子は点ではなく、極微(10
−35メートル)の長さの”ひも”であり、そのひもやひもどうしの相互作用によってさまざまな素粒子が生み出されます。


                  

素粒子は開いたひもで膜に貼りついていますが、重力子(グラビトン・重力を伝える粒子))だけは閉じたひもでブレーンを離れることができます


素粒子は1次元のひもの振動であり、そしてこのひも理論は高い次元・
10次元6つの余剰次元)を必要としています。ひも理論は研究が進むにつれ、素粒子の新しい対称性(それぞれの素粒子にたいしてスピンが異なる)「超対称性粒子(未発見)」を導き出し、現在はそれを短縮して、「超ひも理論」とか「超弦理論」とよばれています。

ひも理論ではこの宇宙は10次元で、余剰の6次元は小さく折りたたまれ複雑な形状をしているといいます。4人のアメリカ人物理学者(プリンストン大学)、デビッド・グロス、ジェフリー・ハーベイ、エミル・マーティネク、ライアン・ロームは6次元を丸めるために複雑怪奇な手法を提案しました。

それは、ひも理論が登場するよりずっと以前に2人のアメリカ人数学者エウゲニオ・カラビとシン・トゥン・ヤウが研究していた空間で「
カラビ・ヤウ空間」として知られています。

                    
                     
カラビ・ヤウ空間

1990年代の初めにはさまざまなひも理論が登場し、そこには5種類のひも理論が横並びに存在していました。そこに登場したのがウィッテンであり、彼は10次元の世界である5種類のひも理論を統一し、時間次元を加えた
11次元超重力理論を導き出そうとしました。
それは
M理論(超メンブレーン)とよばれています。


                   
                   
M理論:11次元超重力理論


M理論は11次元をともなう極度に複雑な宇宙シナリオです。そこで1999年、当時MIT(マサチューセッツ工科大学)教授であった
リサ・ランドールは彼女の共同研究者であった、インド系アメリカ人のラマン・サンドラムとM理論を非常に単純化したモデルを考案しました。
それが「
ランドール=サンドラムのブレーン宇宙モデル(ワープした余剰次元)」です。

このブレーンは物質に満ちているため質量を持っており、この質量が余剰次元を歪めています。こうした考え方は物質が空間を曲げると説明したアインシュタインの一般相対性理論と同じです。つまりこのブレーン宇宙モデルは「
歪められた5次元宇宙」を予言しているのです。



                     ランドール博士


私が共同研究者といちばん話し合ったのは、
なぜ重力は、ほかの素粒子どうしの基礎的な3つの力、すなわち、※電磁気力や弱い力、強い力といったほかの基礎的な力と比べてこんなにも弱いのかという、物理学の大きな謎についてです。


「電磁気力は、電気の力と磁気力で「弱い力」は中性子を陽子に変化させるなど粒子の種類を変える力、「強い力」は中性子や陽子を作っているクォークどうしを結び付けている力です。



それで、私と共同研究者は、わたしたちの考える
5次元世界とほかの膜の存在が、この物理学の大きな謎を解明する可能性があるのではないかと考えました。わたしたちの提唱する5次元世界では、時空のゆがみがひどく大きいために、空間のある領域では重力が強くても、ほかのところでは一様に弱くなってしまうということがありうるのです。

そして、今、わたしたちが見ているのは、その5次元世界の領域の中でも重力の弱い、しっぽの先端のようなものではないか、と考えられるのです。


               
            
  重力ブレーン  5番目の次元(バルク) ウィークブレーン


われわれの宇宙がある
「ウィークブレーン」ともう一つのブレーンである「重力ブレーン」は、歪曲した5次元時空(バルク)で隔てられています。対象物が重力ブレーンからウィークブレーンへ移動するにつれて大きさは増大しますが質量とエネルギーは減少します。つまりウィークブレーンでは重力はずっと弱くなります。このモデルはなぜわれわれにとって重力が非常に微弱であるかをうまく説明できているのではないかと考えます。



 KK粒子の出現を求めて

宇宙物理学者の中には、ブレーン宇宙モデルは見せるこうした不可思議な姿に興奮すると同時に、実験によっても興奮を引き起こすような結果が得られないものかと期待しています。

彼らは近い将来、高次元空間から飛び出してくる粒子を目撃できるかもしれないと考えています。
リサ・ランドール博士もそうした期待を抱いている1人です。彼女はこの宇宙モデルからやってくるかもしれない仮想的な使者を、”カルツァ=クライン粒子”、略してKK粒子と呼んでいます。

彼女は、その粒子は余剰次元を起源とし、わたしたちの住む4次元時空に特別な姿をまとって現れるだろうと予言しています。




カルツァ=クライン理論 

ドイツ人の数学者
テオドール・カルツァは、アインシュタインの重力とマクスウェルの電磁場を含む5次元方程式を提案しました。彼は理論の中で重力電磁気力のいずれもが空間構造内でさざ波のように振る舞い、すなわち重力は通常の3次元空間のさざ波によって、そして電磁気力は新しい5次元のさざ波によって運ばれると説明しました。

そのカルツァの余剰次元のコンパクト化を提唱したのが、スウェーデンの理論物理学者、
オスカル・クラインです。クラインの提案によれば、カルツァ理論における5次元は丸まった輪のような形をしているといいます。またその輪は極めて小さく、物理的なほかのあらゆるスケールとはかけ離れた小ささ、いわゆる「プランク長」10−35で生じると言うのです。

                     
            
テオドール・カルツァ       オスカル・クライン


クラインがこうして5次元をコンパクト化したことにより、相対性理論と量子論とは5次元の中で関係づけられることになりました。そこでこのクラインの理論を通してカルツァの理論を見直した幾人かの理論物理学者たちが、それをカルツァ=クライン理論へと発展させることになったのです。

今では、「5次元以上の高次元の物理学」のことを
カルツァ=クライン理論」と呼んでいます。つまり、リサ・ランドール博士「カルツァ=クライン理論」という分野の研究者なのです。

ふつうの「カルツァ=クライン理論」では、余剰次元は前に述べたプランク長の長さ程度でどんな測定装置でも検出できません。それに対して、ランドール博士らは「5次元以上の余剰次元は、大きいけれど時空が曲がっているから目に見えないだけ」という説を唱えているのです。これが、著書
"Warped Passages” 「ワープする宇宙」の本題です。


今まで、余剰次元が大きいという可能性はOに近いと考えられていました。だからランドール・サンドラム仮説は、物理学者の間では驚きをもって迎えられたのです。将来、
LHCや日本での建設が期待されているILC(国際リニアコライダー)で、余剰次元の証拠が見つかるかもしれません。  SF小説のような世界が皆さんの前に突然現れるかも・・


                    











  2014年  1月19日   理研よこはま サイエンスカフェ

       
 科学技術としての質量分析の発展

 
      植田 幸嗣 (うえだ こうじ)氏  

   
 理化学研究所 統合生命医科学研究センター
    ゲノムシーケンス解析研究チーム  上級研究員

               
横浜市中央図書館


田中耕一氏らの2002年ノーベル化学賞受賞によって一躍有名になった質量分析計。今ではドーピング検査、はやぶさが持ち帰った粒子の解析農薬混入検査化石等の年代測定、そしてがんの診断技術まで、現代社会に欠かせない科学技術となっています。今日は、質量分析による科学の進歩の紹介です。


   
 電子の発見に質量分析が使われました。  表面の酸素の重さを量ります
   
地球上の物質とO同位体
構成比
が異なっていました。
スポーツのドーピング検査に使われています。


                                       







  2013年 12月14日  KAST・理研よこはま サイエンスカフェ

        
アストロバイオロジーとバイオ技術

 
      平尾 一郎(ひらお いちろう)氏  

   
 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤センター
    合成分子生物学研究チーム  チームリーダー



      
川崎市 かながわサイエンスパーク(KSP) 「ギャラリー」


   
 今日の会場は西棟3階です。  生命の起源を探っていきます。
   
 ドレイク博士の宇宙方程式  水・熱・ヌクレオチドとアミノ酸が必要
   
 生命体の3条件  セントラルドグマ
   
 アミノ酸は宇宙からやってきた?  平尾先生の新説(塩基は6種類)
   
 DNA模型(おなじみの二重らせん)  休憩の間の質疑応答


 塾長解説

             
 1. アストロバイオロジーとは?


アストロバイオロジー、「生命はどこから来たのか?」を研究する学問です。NASA(アメリカ
航空宇宙局)も、21世紀の宇宙探査のテーマとして選択しています。


生命とは何なのか?生命と呼ばれるものが、どのように地球に出現し進化してきたのか?
わたしたちは宇宙で孤独な存在なのか? ・・・ この3つはギリシャ哲学から始まった
「生命起
源論」
の根源的な問いです。


この問いは、わたしたち人類のとっての永遠のテーマでもあります。「わたちたちは宇宙の歴史
の中で、この地球に偶然に発生し存在しているのか、または存在するような必然性があったの
か、そしてわたしたち(文明)はこれからどこに行こうとしているのか、」というような問題を含ん
でいます。

※ 世の中には、
アストロバイオロジーという荒唐無稽かもしれない、夢みたいな学問に研究費
を出す必要性があるのか?という議論もありえます。しかし、各国で実際に研究費が提供され、
研究が進められているという事実は、21世紀の学問として
アストロバイオロジーが認められて
いるということを意味します。



              
 2. 宇宙には生命が満ちあふれている?



現在、天文物理研究者の多くが、宇宙には生命が満ちあふれているのではないかと考えていま
す。惑星探査を通じて、ある時期に
地球と似たような環境をもっていた惑星とか、地球と同じよう
地表に物質循環のシステムをもつ衛星があることが明らかになってきたからです。


地球の近くにある恒星を調べた結果、その系外惑星が無数といえるくらいあり、その中に地球と
似た惑星も多数あることがわかってきました。生命は現実に地球に存在しているわけですから、
地球と似たような環境の惑星に生命が存在しないという考える理由はないことになります。



地球外知的生命体の探査は、Search for Extra-Terrestrial Intelligence の頭文字をとって
SETI(セティ)と呼ばれています。代表的な方法は、宇宙からの電波の中に、地球外の知的生
命体が発信した信号を探すことです。

1950年後半、
フランク・ドレイクという博士号を取得したばかりの青年が米国マサチューセッツ
州にあるハーバード大学付属天文台のアガシ観測所で、電波望遠鏡を用いた観測(オズマ計画
)の準備を行っていました。

そして、1961年にはウ
ストバージニア州グリーンバンクのアメリカ国立電波天文台に著名な
科学者が集まり、世界初のSETI会議が開催されました。そこでドレイクは、宇宙における知的
生命体の存在確率を見積もる、単純な方程式(後の
ドレイク方程式)を黒板に書きつけました。



                      
   
 N = R × fp × ne × fl × fi × fc × L


      
  N= 通信可能な文明の数


      
  R = 1年当たりに生成される恒星の数

       
fp = 恒星が惑星を持つ割合

        
ne = 惑星の環境が、生命に適している割合

        
fl = その惑星で、生命が発生する確率

        
fi = 生命が知的生物にまで進化する確率

        
fc = 知的生物が通信文明を持つ確率

        
L = 通信文明の寿命


上記のそれぞれの項目はほとんどはっきりとわかっていないものが多く、代入する値も人によっ
てさまざまですが、宇宙にある恒星の数は、1×10
24個、銀河系内の恒星の数200億個、地
球と似た惑星の数は600億個として計算すると、銀河系内に生命の存在する可能性のある惑
星は
10個〜100万個という結論に達しました。







           
 
   3.太陽系内での生命探査



これまで、太陽系で生命存在の可能性のある天体と考えられているのは、火星・エウロパ(木星
の衛星)・タイタン(土星の衛星)
の3つです。最近になってエンケラドスという土星の小さな衛星
の表面に、
有機物の存在が知られるようになり、生命のある可能性のある天体の1つに数えら
れるようになりました。

火星・エウロパ・タイタンでは、実際に生命探査が実施、計画されています。とくに将来人類が
移住する可能性もある火星では精力的に調査されています。まだはっきりとした生命は発見さ
れていませんが、2012年から始まっている
マーズ(火星)・サイエンス・ラボラトリー(MSL)
いう探査では、近い未来に生命の存在が見つかるだろうと期待されています。


 火星

                  


火星は19世紀から、生命の存在、文明の可能性が語られてきた天体です。最初の火星探査は
1964年の
マリナー4号ですが、周回衛星による詳細な火星画像が得られたのは1971年の
マリナー9号です。その結果、火星の過去の環境は、地球と似て、温暖湿潤であったことをうか
がわせる地形的な証拠が数多く得られました。

その後一時的な中断を経て再開された
NASAの火星探査は1997年に、マーズ・グローバル・
サーベイヤー
という探査機が火星に送られ本格化していきます。以降、2年ごとにさまざまな探
査機が火星を訪れ、成果をあげてきました。

そして火星の地表の詳細な地図が作られ、この地図に基づいて、水の分布・化学元素・鉱物分
布などの詳細が調べられています。その結果、火星の地層に
ヘマタイトという鉄の酸化物の粒
が多量に含まれていることがわかり、この地質学的な証拠はまさに過去の火星に液体の水が
大量に存在し、
水循環が起きていたことを物語っています。


地球と同じように、火星には生命の材料物質も大量にありますので、生命の誕生が起こっても
不思議はありません。地表では難しいとしても、火星の地下には存在する可能性はあります。


現在、火星では生命の痕跡発見の可能性が非常に高いと考えられる探査が行われています。
火星の地表に重さが900kg、全長3mのローバー(探査車)が降ろされ、地表を移動しての地
質、大気、生命探査が行われています。このローバーには
キュリオシティーという愛称がつけら
れています。いずれ大発見のニュースが地球に届くかもしれません。


 エウロパ


                   


木星には、ガリレオ・ガリレイが発見したので
ガリレオ衛星と呼ばれる4つの大きな衛星がありま
す。その1つがエウロパで、生命探査の対象となる有力な候補です。エウロパ地表画像を見
ると地表を覆う氷に、筋状に見える地形(写真参照)が無数に走っています。

地表は氷で覆われていますが、氷の下には液体の水が海のように続いているのではないかと
考えられています。その理由は、エウロパの内部で熱が発生するメカニズムがあるからです。

エウロパは、木星の周りを公転していますが、その軌道は楕円形で木星に近づいたり遠ざかっ
たりしています。そのときの潮汐力が変化してその都度エウロパの形が変化してゆがみます。
その変形する熱が内部にたまって暖められるのです。

その熱が内部から地表付近に流れてくるので、氷が溶け、海になっているだろうと考えられてい
るのです。まさに、地球でいうところの
熱水噴出口のようなものが、エウロパの氷の下にあること
が予想されます。


その付近には材料物質として、
炭素・窒素・水素・酸素など、生命にとって必須の元素もたくさん
あるはずです。太陽の光が届かなくとも、生きられる
生命は存在します。熱水噴出口に存在する
細菌はまさにそのような生命です。だとすればエウロパ海の下でも生きることができるのでは
ないでしょうか。



 タイタン


                   



タイタンに生命存在の可能性が高いと見られる最も大きな理由は、メタンの循環が存在すると
いうことです。
タイタンの地表温度は低いので、水は凍りついていますがメタンエタンタイタ
の地表環境でも液体として存在します。


地表温度が上がればメタンは蒸発し、大気中で凝結して雲をつくります。その量が多くなれば、
雨となって地表に降ってきます。メタンの雨です。そしてメタンの流れる川がくぼ地に流れ込めば
湖となります。これは
カッシーニ(土星周回探査機)が、実際に観測しています。


雨となったメタンが川を経由して湖に流れ込み、そこから再びメタンが蒸発し、雲を作り雨となる
という、地球上の水の循環のような
物質循環がメタンで起きているのです。


また、
タイタンの大気中には有機物があることがわかっていて、それがモヤのように漂っています
。タイタンは
オレンジ色(写真)に見えますが、それはこのモヤのような物質によるものです。

カール・セーガンがこの物質を
タイタンソリンと呼んで以来、惑星等の表面の赤っぽい有機化合
物をソリンと呼ぶようになりました。
ソリン(Tholin)という用語はギリシア語由来で「不明瞭」を意
味します。

これが地表に降っているかもしれませんので、タイタンも太陽系内で生命存在の可能性のある
有力な天体と考えられています。




            
 
 4.生命材料物質の合成



化学進化

化学進化とは、
細胞という構造や、その材料であるタンパク質、遺伝情報を担う核酸が合成され
る過程の総称です。この考えを初めに提唱したのが、旧ソ連の生科学者・
オパーリン(1894〜
1980)です。彼は、原始海洋中で生命に関わる物質がつくられ、単純なものから複雑なものへと
進化して、生命の誕生に至ったと考えました。

                     


オパーリンは、地球原始の海の中で、まず
のような構造がつくられ、その膜の中に分子が入り
それを複製する機能が生まれれば、それは細胞ではないかと考え、そのような物質に
コアセル
ベート
という名前をつけました。


※ 私(塾長)は、高校(翠嵐)1年生の時、生物部に所属していましたが、オパーリンの「生命の
起源」(岩波新書)を読み、コアセルベートに興味を惹かれ、実験室で作ったことがあります。
ゼラチンとアルコールで作成した記憶がありますが、何かボヤーとしたかたまりで、細胞には見え
ませんでした・・・


                     




 セントラルドグマ と RNAワールド


生命は、細胞のような構造体を持つことが必要ですが、少なくとも
自己増殖できること、つまり、
自分と同じ個体を作ること(複製)ができるということが、生物にとって非常に重要な基本的性質
になります。

自分の形質を複製して次世代に残す。そのようにして生物は種として生き延びようとします。
その時に親の形質という情報を子へと伝える役割をしている物質があります。


地球生命の遺伝情報を担っている物質は
DNAです。特定の遺伝情報暗号を担う単位が遺伝子
、遺伝子全てを意味するのが
ゲノムです。DNAの情報に基づいてタンパク質が作られます。
つまり、生物において遺伝される情報とはタンパク質の作り方だということなのです。


その基本的なしくみは、DNAの情報(暗号)がRNAに
転写(コピー)され、それが翻訳(暗号が
アミノ酸を選ぶ)され、アミノ酸の配列が決められてタンパク質を合成していくというものです。
この生成過程を、
セントラルドグマと呼んでいます。


             
    セントラルドグマ

DNA   →
転写
 RNA  → 
翻訳
タンパク質 



しかし、地球上にはこのセントラルドグマに従わないものも存在します。それは
ウィルスです。
タバコモザイクウィルスやインフルエンザウィルス、ポリオウィルスなど多くのウィルスは、自分の
遺伝情報をDNAではなく、RNAに保存しています。


これらのウィルスでは、RNAをもとにDNAが合成されます。つまり、セントラルドグマとは逆のシ
ステムをもっています。これは
逆転写と言われています。またこのようなウィルスはレトロウィルス
と呼ばれます。


                  
  逆転写

 RNA  
逆転写
 cDNA    
翻訳
 タンパク質 

※ RNAからDNAを作る酵素を
逆転写酵素といい、作られるDNAをDNA(complementary DNA)と呼びます。
                                   
   相補的DNA


現在、セントラルドグマ自体に疑問符が呈されていています。それはRNAの中に
リボソームRNA
と呼ばれる
、酵素作用を持つRNAが発見されているからです。このRNAは、DNAとタンパク質
の両方の機能を持っていて、自分の力で自己複製できてしまうのです。


これはセントラルドグマと矛盾し、そこでRNAワールド説という考え方が提唱されています。RNA
遺伝子の機能とタンパク質のもつ触媒機能をもっているので、生命がDNAとタンパク質という
2つの高分子を用意しなくてもよく、RNAさえ形成されれば、生命の誕生につながります。


DNAよりも前にRNAだけの世界があったようです。これを
RNAワールドと呼んでいます。

                    その世界とは?

生物は
RNAとして存在し、増殖していきました。そして進化の過程で遺伝情報を保存する役割を
DNAに、複製する役割をタンパク質に譲ったのです。

保存がDNAによって行われるようになったのは、糖の一部が
水素になっているDNAのほうが、
いろいろなものに反応してすぐに変化してしまうRNAに比べてはるかに
安定した物質であるため
です。

代々受け継いでいかなければならない設計図という大切な情報を保存するには、RNAよりも
DNAのほうが、生物にとって安心だったのでしょう。RNAに始まった生命が生き残っていくため
に、より有利になるように保存・複製をDNAとタンパク質に受け渡した。これがRNAワールドの
考えです。












      2013年  11月20日  Kavli IPMU 一般講演会

             
 素粒子から宇宙へ

  
    講演:ヒッグス粒子と私たちの生活
 

     
Dr.Fabiora Gianotti (ファビオラ:ジャノッティ)

           欧州原子核機構(CERN)
           英国エジンバラ大学名誉教授


                 浜離宮 朝日小ホール


 
  東京築地にあります。  Dr.Fabiora Gianotti


私は、イタリア・ミラノの出身です。高校までは文系女子でした。ミラノにある音楽院では、ピアノ科に
在籍し、
ピアノ専攻で学位を取得しました。その後、ミラノ大学では理系に転じ、1989年に素粒子
物理学
で博士号を取得しました。


私は、
物理=芸術だと思っています。サイエンスは概してみな美しい。勉強が進むにつれ、方程式に
究極の美を感じるようになりました。そして我々人間も、植物も、他の造形物もみな同じ原子でできて
いて秩序を保っています。全部同じなのです。


私は学生時代、
キューリー夫人に影響をうけました。研究内容やそれに対する姿勢はもちろんです
が、キッチンのとなりに実験室がある。科学が生活のなかにとけ込んでいるのがうらやましいと思い
ました。私の場合は、となりに巨大な素粒子検出器をおくことはできませんでしたが・・


1994年から研究員として
欧州原子核研究機構(CERN)に所属し、UA2・ALEPH・ATLASなど
いろいろな実験グループで検出装置の開発やデータ分析などの研究に取り組んできました。

2009年には、38か国、約3000人の研究者が集うATLAS研究グループの代表に就任致しまし
た。そして2012年7月4日、CERNの記者会見でATLAS実験グループの仲間と一緒に、
ヒッグス
粒子発見
の発表を行いました。

               ヒッグス粒子に関する記者会見の様子(ニュートンより)

               
        
左手前が、ヒッグス粒子を予言したピーター・ヒッグス博士、右手前がジャノッティさん
        
左奥は、ロルフ・ホイヤーCERN所長、中央奥は、ジョー・インカンデラCMS実験代表
            

今回の発見が発表された会場でマイクを向けられたヒッグス博士は、「生きているうちにこのような
成果を見ることができたのは、本当に夢のようなことです」とコメントし、目頭を熱くされていました。


 CERNとは?

ヒッグス粒子の発見の舞台となったのが、
スイス・ジュネーブの郊外とフランス国境をまたいだ所の
地下約100mに設置されている巨大実験施設「
LHC(Large Hadron Colider:大型ハドロン衝突
型加速器)」です。


LHCは、1周27kmもあり、JR山手線の1周の長さに匹敵します
。それを運営しているのがCERN
です。2008年9月に稼働を開始しています。


LHCは
「加速器」とよばれる施設です。加速器の本体は、内部を真空にしたパイプであり、その中を
陽子が進行します。陽子は電気的な力によって、自然界の最高速度である光速(秒速約30万km)
近くまで加速され、陽子を正面衝突させ、その際におきる現象を調べます。


加速器実験では、加速した陽子どうしの衝突によって、衝突前には存在しなかった
粒子が新たに作
られます
。これはもとの粒子がこわれて、その破片が飛び散るのではありません。。衝突前にはなか
った粒子が大量に発生するのです


カブリ数物連携宇宙研究機構長の村山斉先生は、「軽自動車が高速で衝突すると、トラックや戦車
が出てくるようなものです」と語ります。ヒッグス粒子もこのようにして作り出されました。




 







        2013年 10月15日  ILC計画・国際シンポジウム

  
 宇宙の謎に迫れるか! 国際リニアコラリダー計画



          東京大学  伊藤国際学術研究センター ・ 伊藤謝恩ホール


(1)  基調講演

  村山 斉(ひとし)先生   東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長

  大宮 英明さん       三菱重工業 取締役会長  日本経団連 副会長


(2) パネルディスカッション

   
パネリスト

  村山 斉先生

  山崎直子さん      宇宙飛行士  内閣府宇宙政策委員会委員

  Mr.リン・エバンス   リニアコライダー・コラボレーションディレクター

  Mr.マイク・ハリソン  米・ブルックヘブン国立研究所・ILC米国地域ディレクター

  内永 ゆか子さん    NPO法人 JーWin 理事長



  
コーディネーター

  池上 彰さん       ジャーナリスト・東京工業大学教授



   
 東京大学 伊藤謝恩ホール   超伝導加速空洞
   
 テーマは日本の新たな科学技術立国の道  村山先生の基調講演
   
 素粒子の1つニュートリノの解説  宇宙の歴史の説明
   
 ILCで行われる電子と陽電子の衝突  ILCで期待されるさまざまな検証
   
 パネルディスカッション  ヒッグス粒子を紙芝居で説明


 ILC とは?

ILC(国際リニアコライダー International Linear Collider)計画は、全長約30kmの直線状の
加速器をつくり、最高エネルギーで
電子と陽電子をより正確に衝突させる実験です。

宇宙初期に迫る高エネルギーの反応を作り出すことによって、宇宙創成の謎、時間と空間の
謎、質量の謎に迫ります。2012年7月にスイス・フランスの国境にまたがる
CERNのLHC
ヒッグス粒子らしき粒子が発見されましたが、(完全に確定されたわけではありません)その
粒子の性質を詳しく調べる役割が、このILCに期待されています。


本日の村山先生の話によると、「ILCでヒッグス粒子を詳しく調べると、たくさんの仲間の粒が
見つかる可能性があります。どうも1種類ではなさそうなのです。中には
暗黒物質(ダークマ
ター)
の正体となる粒があるかもしれません。異次元へと消えていく粒が出てくる可能性もあり
ます」 ということで、ILCには新たな発見が出来るのではないかという大きな期待がかけられ
ています。



         


ILC計画は、現在欧州CERN研究所で稼動しているLHCの次に実現するべき有力な大型基幹
計画として、世界中の素粒子物理学者の意見が一致している計画です。ILC計画を進めるた
めに、アジア・欧州・米国の3極の素粒子物理学者による国際共同研究チームが作られていま
す。


日本はILC建設地として、海外から大きな期待が寄せられています。それは、日本はこれまで
LHC(CERNの施設)の建設にも多くの企業が貢献してきていますし、1980年代からは、つ
くば
KEK(高エネルギー加速器研究機構)でリニアコライダーの研究も行っています。

我が国は加速器を冷却する技術を含め、電磁力装置では東芝・日立、光学機器・レンズ関連
ではカミオカンデ建設で貢献した
浜松ホトニクスなど世界ではトップレベルの水準にあるので、
CERNだけでなく、その業績は今や世界中に認められています。


そして適地選定として、ILC戦略会議は、今年8月23日に、地質、技術と社会環境などさまざま
な観点から、
北上山地が候補地として最適だと発表しました。

 加速のしくみ

作り出される電子と陽電子のビームは、約200億個の粒子のかたまりです。これを上の図の
楕円形の部分(ダンピングリング)で、周回させると、粒子の向きがきれいに揃っていきます。


この向きが揃ったビームを超伝導加速システムを使って加速します。電子と陽電子は、超伝
導加速空洞内(上の図の緑と青の立体の部分)に電波を送り込んで作った強力な電場によって
ほぼ高速まで加速されます。

                
クライオモジュール

                

写真一番上右の
超伝導加速空洞を組み込んだ加速ユニットがクライオモジュールです。この
ライオモジュール
約800台で電子用と陽電子用のそれぞれ約11kmずつの線形加速器を構成
しています。




真空容器の中に並ぶ加速空洞は、冷却システムによってマイナス271℃まで冷やされ、超伝導
状態になっています。電気抵抗がほぼゼロなので、電力をロスしたり加熱が起きたりせず、効率
よく加速ができ、消費電力も抑えられます。

衝突直前には、強力な電磁石を使って、ビームを髪の毛1万分の1という小ささまでしぼり込み
ます。衝突時のエネルギーは5000億電子ボルトになります。


加速器で光速に近いスピードに加速された電子と陽電子は、衝突点の中心でぶつかり、エネルギ
ーに転換された後、なんらかの素粒子が生まれます。


この衝突点にあるのが、上の模式図中央にある測定器で、衝突の瞬間を詳細に測定します。ILC
では、検出方法が異なる2種類の測定器が設置されています。


                 
                e-                e


 ILCが創る未来


ILCが日本にできれば、現在のCERN(欧州合同原子核研究機構)と同様に世界中の研究者、学生
が日本に集まることになります。世界の頭脳が集約され大きな刺激を与えることによって、多くの若
い人々が科学というものに関心を寄せるようになるはずです。

また、現代社会を支えるハイテク産業を初めとして、その他各種の関連
産業、PET(ポジトロン断層
撮影)などに代表されるがん医療、ITなどの技術の多くが
素粒子物理学の研究から生まれています。

ILCは、全世界的な
「知の拠点」となります。日本にILCができるということは、世界の技術・文化・教
育の発信地となることであり、雇用や経済に面でも大きな力となっていくことでしょう。

さらに、科学における
平和的な国際協力の場となることは確実です。それはCERNが第二次世界大
戦後のヨーロッパに生まれ、その後ヨーロッパが一つになって、EUという共同体が生まれるという歴
史があるからです。

科学は自然を理解するための世界共通・共有の言語であり、人々の心をつなぎ、人類にとって持続
するための大きな力となります。ILCもまた世界の平和に貢献できるかもしれません。

                    
                   
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        2013年 7月6日  サイエンスカフェ宇宙2013

   
 「超新星・星の進化と宇宙の進化をつなぐ大爆発」


 
東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構
              特任准教授


                    前田 啓一 先生 


                  多摩六都科学館 サイエンスエッグ



                                                              

   
 超新星は星が起こす大爆発です。 赤色巨星
   
 衝撃波によって吹っ飛びます。  全ての元素は宇宙で生まれました。
   
 Ta型超新星爆発  サイエンスカフェ開店準備














    2013年  5月27日   Kavli(カブリ)Institute(研究所)講演


      「インフレーション宇宙最前線」


 東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構
              機構長・教授


              
村山 斉(ひとし)先生



      
    東京大学  伊藤国際学術研究センター ・ 伊藤謝恩ホール



   
 東京大学・赤門  伊藤国際学術研究センター
   
 安田講堂 伊藤謝恩ホールは地下2階
   
村山先生(今日の講義は全て英語でした) 研究所の半分以上は海外からの研究者です
   
今日の講義は宇宙インフレーション(急膨張)
の最前線
宇宙はどうやって始まったのか?
宇宙はこれからどうなっていくのか?
宇宙は何でできているのか?
宇宙はどのように作用しているのか?
私たちはどこから来たのか? 
   
宇宙の始まり(インフレーション)が起こったの
は138億年前(137億年から訂正されました)
望遠鏡で 星や銀河を観測することは昔の宇宙
を見ていることになります。
   
アインシュタイン方程式です。一般相対性理論
から導かれるアインシュタイン方程式は、質量
エネルギーにより時空(時間と空間)がゆがむ
ことを表しています。
真空とは、エネルギーも何もないわけではあり
ません。粒子が絶えず生成や消滅を繰り返し
ている、エネルギーをもった状態なのです。

そして真空の状態も変化します。(相転移) 
   
 ハワイのマウナケアにあるすばる望遠鏡  設置される超高視野デジタルカメラ


                                                               



平成25年4月11日に村山先生の解説でコズミックフロント(NHK)が放送されました。 
                   ←画像クリック








        2013年 5月16日   Yomiuri Techno Forum


      
2013年度 ゴールドメダル賞 受賞記念講演会

              科学の力で、日本を元気に!




       
「ヒッグス粒子から宇宙誕生を探る」


            
東京大学大学院 理学系研究科教授

             浅井 祥仁(しょうじ) 先生




        
 日本プレスセンター 大ホール    主催:読売テクノ・フォーラム


                                                          
                                                          「ヒッグス粒子発見」 読売新聞より

   
優れた業績をあげた気鋭の新進研究者を顕
彰する賞です。今年で第19回目になります
。授賞式は、18日、東京都千代田区の東京
会館で行われます。
宇宙にある銀河の数は1026個、 恒星の数
は1021×1026個です。光のドップラー効
果により赤い星は遠くに、青い星は近くにある
ことが多いです。
   
宇宙の始まりを調べるには素粒子の研究が
必要です。ビッグバンの前には、素粒子が
ギュウギュウに閉じ込められていた状態が
ありました。それが急激に膨張してビッグ
バンにつながります。
原子の大きさは10ー10m、原子核は 10
15
mで、原子を野球場にたとえると原子核は
1円玉くらいになります。素粒子は10ー19
よりも小さく中には何もつまっていないと考え
ます。
   
波長の短い光ほど細かい所まで見ることが
できます。私(浅井先生)は最近買いました
がブルーレイは普通のDVDよりも波長が
短くなっています。
上の数式でわかるようにエネルギーが高いほ
ど波長が短くなります。外村先生の実験で、
電子が波でもあるということがわかりました。 
   
加速器では光に限りない近いスピードで陽
子どうしを反対向きに発射させて、衝突さ
せます。
乾電池やブラウン管でも、加速器に似たことが
実験できます。 
   
フランスとスイスの国境にまたがった所に
あるCERNです。
東京の山手線と同じくらいの長さの加速器が
あります。 
   
陽子の実際の大きさは10−15mです。
素粒子の種類です。 
   
形のある素粒子です。 力を伝える粒子です。
   
ほとんどの素粒子には質量があります。
光子(フォトン)は質量をもちません。
その素粒子に質量を持たせたのがヒッグス
粒子です。 
   
真空とは何もないのではなく、変なもの
で満ちている状態です。
磁石を冷やすと磁力が強くなり温めると弱
くなります。
※@ 実験で確かめられます。 
   
 ヒッグス粒子の探し方 CERNの施設
   
ヒッグス粒子は光子に崩壊します。 
ヒッグス場が励起した場所です。
   
「ヒッグス粒子」は、標準理論の17番
目の粒子ではないのです。新聞社の
方には、前の日に「そのように書かな
いでくださいね。」と言っておいたので
すが、ダメでした。ヒッグス粒子は今
までの素粒子とはワケが違うんです。
今回、ヒッグス粒子が発見されたのです
が、「色つきヒッグス」もあると言われて
います。それはヒッグス粒子の超対称
性粒子のことで、ダークマターの候補
ともされています。私は現在、その超
対称性粒子の研究をしています。



                                               ※@を、早速、フロンティアクラスの生徒に実験してもらいました。

   
 冷凍庫で冷やしたU型磁石  ガスバーナーで熱したU型磁石
   
 クリップがたくさんつきました。  クリップの数はかなり減少しました。








塾長解説     「現在の標準理論」

ヒッグス粒子がなければ、今の宇宙はできなかった!


       






               (1) 宇宙は無から誕生?



皆さんの中には、「宇宙誕生は
ビッグバンによって始まった。」と思われている方が多いと思い
ますが、ビッグバンとは、非常に小さくて超高温・超高密度の
”火の玉宇宙”のことをいいます。
でも、いきなり何もないところから大爆発が起きたとは考えにくいですね。




              




少し前までは、現在宇宙にある全ての物質が
特異点という1点に集中していて、そこからビッ
グバンが始まったと考えられていました。しかし、1点に集中していた宇宙とはどんなものなの
でしょうか?この点のほかには物質が存在しないわけですから、宇宙の全物質がこの点に凝
縮されていたことになります。すると、密度も温度も
無限大になります。


このように大きさがゼロで全ての数値が無限大になってしまうと、いろいろな計算が破綻してし
まいます。物理学が成り立ちません。よって、今ではビッグバンが始まりではないと考えられて
います。 ・・・ では、ビッグバンは何によって起きたのでしょうか?


現在では、ビッグバンの前には
インフレーションという宇宙空間の急激な膨張が起きたといわ
れています。(
インフレーション理論) しかし、そのインフレーションは何がきっかけで始まっ
たのでしょうか?


実は、それはまだ誰にもわかっていません。でも仮説はいくつかあります。その一つは現在の
物理学の2大理論である
「一般相対性理論」「量子論」をもとに考え出されたもので、これら
、スティーブン・ホーキング博士(英)や、アレキサンダー・ビレンキン博士(米)たちによっ
て提案されています。


二人に共通するキーワードは
「真空のゆらぎ」です。量子論によれば、ミクロな視点から自然界
を見ると、超超短い時間(10−20秒以下)では、「物質がある」「物質がない」ということが定ま
らないといいます。「あるとも言えるし、ないとも言える」という状態です。


これはまさに般若心経の
「色即是空・空即是色」の世界です。色即是空とはすべての存在(色)
に実体がないということで、空即是色とはすべての存在の母体となるのが「空」であるということ
です。実体のない「空」こそが、現在の宇宙を生み出した源になっているのではないでしょうか

私は、般若心経の核を成す言葉「
」=宇宙の大法則(大統一理論・未完成)と考えています。




              
 or    
              
ある                ない




私たちは、
真空というと「何もない状態」と考えます。しかし、何もないはずだといわれている
真空中でも、極小の世界では二つの粒子がペアになって生まれた
(対生成)かと思えば、すぐ
に消滅している
(対消滅)というのです。ですから、ごく短時間で見ると、エネルギーの大きさの
値は一定ではなく、瞬時に非常にエネルギーの高い場も出てくるのです。


このような、物理的な状態が一つに定まらないことを
「ゆらいでいる」といいます。皆さんもどこ
かで見たことのあると思いますが、アインシュタインの
E=mCという公式によると、エネルギ
ーは物質の質量に変換することができます。


このため、瞬間的に高いエネルギーを持った場所では、そのエネルギーが粒子に変わり、粒子
が生まれます。しかし、できた粒子はすぐに消滅してもとの状態に戻ります。これが量子の世界
なのです。


そして、この真空での粒子の対生成、対消滅と同じようなことが宇宙が誕生する前にも起こって
いたということです。宇宙の大きさが
10ー35プランク長といい、物理学が扱える最小の長さ
の単位
)より小さい時には宇宙の存在自体がゆらいでおり、極々小さな宇宙自体が生成、消滅
をくりかえしていたのではないかと考えられています。






                      
       
宇宙のもと          対生成               対消滅





小さな宇宙の卵が生まれ、すぐに消えていく、そしてまた生まれる・・しかし、ある時、そんな卵
のひとつが消えず、桁違いのすさまじい勢いで膨張します。この瞬間が
宇宙の誕生です。そし
てこの急膨張を
インフレーションとよんでいます。


                       
                       


インフレーションといえば、日本では物価が上昇することを指す経済用語としてよく使われます
が、英語では、もともとは急速に膨れあがるという意味です。でも、宇宙の急膨張は非常に短く
、宇宙が卵として生まれてから、
10−36秒後までの時間です。


10
−36秒とは、いったいどのくらいの短さなのでしょうか?1秒の1兆分の1が10ー12秒なの
で、10
−36秒は、その1兆分の1の、さらに1兆分の1の時間になります。なんという短さなの
でしょう。


さらに驚くべきことは、そんな短い時間で宇宙の卵は、
1043になったといいます。1043
とは、1兆を1兆倍し、さらに1兆倍し、さらに1000万倍した大きさです。よく「天文学的な数字
」という言葉を耳にしますが、そんな言葉も通用しない大きさですね。


このインフレーション理論は、1980年頃にアメリカの
アラン・グース博士が提唱し、また東京
大学名誉教授の
佐藤勝彦博士も同様の理論を独立に提唱されています。また、2009年に
打ち上げられたESA(ヨーロッパ宇宙機構)の探査機やNASAの
プランク探査機などの観測
によりインフレーション理論が証明されようとしています。





              








             (2) 宇宙に物質と光が生まれる



 10−36秒後 


想像を絶する急膨張のインフレーションにも終わりがあります。
10−36秒後宇宙の膨張速
度は、急激に遅くなっていったと考えられています。



インフレーションが止まると、どうなるのでしょうか・・? 猛スピードで走っていた車がいきなり
急ブレーキをかけると、タイヤはこげたにおいを残して摩擦熱で熱くなります。これは車の
運動
エネルギー
が、熱エネルギーに姿を変えたからです。


インフレーションが終わるときにも、これと同様なことがおきました。宇宙の卵の超加速的な膨
を引き起こしていたエネルギーが、別なエネルギーに変わったのです。その別なエネルギー
とは、
”物質” ”光” ”熱” のエネルギーです。


インフレーションが終了すると同時に、宇宙には物質と光が誕生し、超高温(数兆度)の世界
になったのです。この灼熱状態の宇宙の誕生が、
「ビッグバン」です。火の玉宇宙ともよばれ
ています。この瞬間の宇宙は、
1cm程度であったと考えられています。


では、どんな物質が誕生したのでしょうか?
インフレーション終了直後に誕生した物質とは、
「素粒子」です。このころの宇宙は、さまざまな素粒子(質量0)が高速でばらばらに空間を飛
びかっているような世界だったと考えられています。








             (3) ヒッグス場の誕生



 100億分の1秒後 (10ー10秒後)


真空の相転移(そうてんい)によって、ヒッグス場が現れたとされています。ヒッグス場によって
、はじめて素粒子に
質量がもたされ、素粒子は今まで通りに動くことができなくなってしまいま
した。真空がヒッグス粒子の海(ヒッグス場)で満たされたのです。

私たちは、この進みにくさのことを「質量」として感じています。ヒッグス粒子の誕生で今の宇宙
があるのです。私たちの体もヒッグス粒子がなければバラバラになってしまいます。ただし、光
(光子)だけはヒッグス場の影響を受けずに進むことができます。


                 

※ 真空の相転移

前に説明したように、真空といっても何もないわけではなく、量子論的には粒子が絶えず生成
や消滅を繰り返している、エネルギーを持った状態なのです。宇宙の膨張は温度の低下をも
たらし、量子論によれば、
より低いエネルギーを持った新しい真空を生み出します。





 1万分の1秒後


そして、宇宙誕生から10−4(1万分の1)秒後、宇宙に大きな変化がおとずれます。ほんの少
し時間が過ぎただけですが、温度が
1兆度くらいに
下がったのです。すると、質量を持った素粒
子どうしが結びつき
「陽子」「中
性子」が誕生したのです。


                      

              
 陽子          中性子

 素粒子のうち、U(アップクォーク)U(ダウンクォーク)が互いに集まって「陽子」と「中性
子」を形づくるようになりました。陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個が集まったも
の、中性子は、アップクォーク1個とダウンクォーク2個が集まったものです。













           
(4) 宇宙誕生 3分後の世界



3分後 


宇宙誕生から約3分後、宇宙の温度が9〜10億度まで下がってくると、ようやく水素以外の
元素の
原子核も誕生し始めます。核融合反応がおき始めたのです。核融合反応とは原子
核どうしが衝突・融合する反応のことです。ばらばらに飛びかっていた
陽子中性子が融合
し、さらにそうしてできた原子核に他の原子核が融合し、やや大きな原子核ができていきま
た。


                    
                    
 ヘリウム


しかし、ビッグバンからわずか数十分ほどで核融合は終わってしまいます。水素に加えてでき
た元素の原子核は、
ヘリウムとごくわずかなリチウムくらいでした。このあと3億年程度の間、
宇宙にはこれだけしか存在しなかったのです。











             (5) 宇宙の晴れ上がり



 38万年後


核融合反応がおきるには、高温・高密度が必要です。宇宙がどんどん膨張した結果、温度が
下がっていき、核融合反応がおきなくなってしまったのです。そして、宇宙誕生から
約38万年
、宇宙がさらに膨張したことによって、宇宙は3000度程度ま下がりました。


温度が下がるということは、電子や原子核の飛びかう速度が遅くなるということを意味します。
そのため、遅くなった電子は、電気的な引力によって、原子核につかまるようになります。こう
して、電子は原子核の周囲に存在するようになりました。
「原子」の誕生です。原子は宇宙誕生
から、
約38万年たってようやく生まれたのです。また、原子誕生の頃の宇宙の大きさは1000
万光年程度と考えらています。






                  



原子が誕生する前、光は真っ直ぐに進めませんでした。空間を自由に飛びかう電子とすぐぶつ
かっていたためです。霧の中に入ってしまうと見通しが非常に悪くなります。光が空中に浮かん
でいる細かな水滴にあたって直進できないからです。原子の誕生前の宇宙では、電子が霧の
水滴の役割を果たし、宇宙を不透明にしていたのです。

しかし、原子核が電子を捕まえて空間を自由に飛び回る電子がなくなると、ようやく光は真っ直
ぐ進めるようになります。宇宙の霧が晴れて透明になったのです。これを
「宇宙の晴れ上がり」
とよんでいます。この時の光は、現在の地球で観測することができます。
「宇宙背景放射」とい
います。








             (6)  宇宙の暗黒時代



  原子誕生後〜約3億年間


                  


原子が誕生した後、宇宙は特に大きな変化のない時代が
約3億年間も続きました。ほとんど
水素ヘリウムのガスだけがただよう世界だったのです。しかし、この時代は、後に恒星や銀
河などが生まれる環境をゆっくりとはぐくんだ時代であったとも言えます。


その原動力は、
重力です。ガスにもわずかながら重さがありますから、周囲に重力を及ぼすこ
とができます。誕生直後の宇宙には、ごくわずかな密度のムラがあったようです。(
ダークマタ
の影響と考えられています)


そして、ガスの密度が周囲よりもほんの少し高い領域は、周囲に及ぼす重力が高いため、ガス
を周囲から集めます。すると、さらに密度が上がって重力も強くなり、より多くのガスを周囲から
集めるようになります。このようにして、宇宙には
ガスの濃淡が少しずつ成長していったのです。








           (7)  ファーストスター誕生



 宇宙誕生3億年後頃


宇宙誕生から
約3億年たつと、ガスの濃い部分は、至る所で太陽の重さの100分の1くらいの
ガスのかたまりへと成長しました。原始星(星の種)ができたのです。これらの原始星は1000
年〜10000年くらいの間に周囲からガスをさらに集め、ガスが自らの重力で収縮し、中心部
が高温・高密度になり、
核融合が始まります。この核融合反応で発生するエネルギーで、星が
輝き始めます。星に”火”がともったのです。
ファーストスターの誕生です。


                     


ファーストスターはどれも非常に巨大な恒星だったと考えられています。重さは太陽の数十倍
から100倍近くあったといいます。明るさも太陽の数十万倍〜100万倍だったと考えられて
います。暗黒の世界で、燦然(さんぜん)と
青白く輝いていたことでしょう。






      
(8)  ファーストスター大爆発




ファーストスターの中心部では、核融合反応により、水素の原子核から、ヘリウムの原子核が
作られます。中心部で水素が使い果たされる
と、今度はヘリウムの原子核どうしが核融合反応
をおこし、
炭素の原子核などが合成されます。


このように恒星の中心部では、軽い元素の原子核が燃え尽きるたびに、より重い元素の原子
核が核融合反応の燃料として使われるようになり、さらに重い元素の原子核が合成されていき
ます。恒星は
宇宙の元素製造工場なのです。


また、晩年の恒星は膨張していきます。恒星を縮める方向にはたらく重力と、恒星をふくらませ
る方向にはたらくガスの圧力のバランスが崩れるからです。ファーストスターの場合、その直径
100倍以上にふくれあがったと考えられています。


膨張した恒星の中心部に
鉄(Fe)ができると、核融合反応は終わりを迎えます。鉄は最も安定
な原子核で、それ以上の核融合反応が進まないからです。そして核融合を終えた恒星は
「超新
星爆発」
とよばれる大爆発を起こして死を迎えます。



                   



                   超新星爆発とは?



現在、宇宙に存在するあらゆるものは
92種類の元素でできていますが、いったいそれらは、
どこでつくられたのでしょうか?


ジョージ・ガモフは、ビッグバンの時に重金属を含むすべての原子が合成されたと考えました
が、実際には水素とヘリウムだけでした。暗黒時代が過ぎ
ファーストスターが誕生すると核融
合反応により、水素・ヘリウムの核融合などを経て次々に
炭素(C)や酸素(O)など重い元素
が作られていきます。しかし、
鉄(Fe:原子番号26)でストップしてしまいます。


鉄は核融合を起こしても
エネルギーを発生しない原子核なので、次の段階に進むことができ
ないからです。核内では鉄よりも重い元素ができないのです。しかし、鉄がたまっていき、鉄
の芯の密度が上がると一部の電子がその圧力に耐えきれずに原子核にのめり込み、別の
原子核に変わる反応が発生します。これを
電子捕獲とよびます。


電子捕獲が起こると、そこでの外向きの圧力が急激に減少するので、中心部は
自己重力
対抗する支えを失い、急速につぶれることになります。すると超高密度に圧縮された中心部
からその反動で猛烈な
衝撃波が発生します。


                    


その衝撃波の温度は
1000億度以上に上がり、星の表面に近づくわずか10秒〜15秒の間
に、鉄よりも重い
”金””プラチナ”などの元素が作られるのです。そして中心部を残して大
爆発します。このようにして発生する超新星爆発を、
※ 「重力崩壊型超新星爆発」とよんでい
ます。


ファーストスターが誕生する前、水素とヘリウムくらいしかなかった宇宙に、こうしてさまざま
な元素が増えていったのです。宇宙にばらまかれたこうした元素をもとにして、第2世代以降
の恒星が作られていくことになります。


そしてまた超新星爆発と第3代・4代・・の恒星形成を繰り返しながら、宇宙に多様な元素が
存在することになったのです。私たちの太陽も宇宙誕生から
約90億年後(今から50億年前
)、太陽がまだなかった頃、ある星が超新星爆発を起こし、その星が放出した元素が集まっ
た星雲から生まれたのです。


                     



新しい星は全て、大爆発をおこした星から誕生するのです。宇宙でも
死と再生のプロセス
繰り返されているのです。

そして太陽の周りに惑星が誕生し、その一つがわが地球です。私たちの身体を構成している
酸素(O)炭素(C)水素(H)窒素(N)カルシウム(Ca)リン(P)・・・ また、健康維持
には欠かせない
銅(Cu)亜鉛(Zn)などの元素もすべてこのようにして恒星がつくったものな
のです。
私たちは宇宙から生まれたのです


           
私たちの身体を構成する6大元素(重さの割合)

酸素   炭素  水素 窒素   カルシウム  リン その他 
 65%  18%  10%  3%  1.5%  1%  1.5%








                  超新星爆発の種類  

              重力崩壊型 と 核暴走型(Ta型)




超新星爆発には大きく分けて、重力崩壊型核暴走型の2種類があります。質量が太陽の3倍
以上ある恒星が一生終えるときに超新星爆発が起こりますが、特に8倍以上ある星の場合は、
重力崩壊型になります。


   重力崩壊型 


中心部が
重力崩壊することで、衝撃波が反動として生じ外層に広がっていき爆発するタイプです
。上の「超新星爆発とは?」で説明したファーストスターは重力崩壊型ですが、重力崩壊型は
宙の歴史の中で初期におこり、その後に誕生する星の形成に大きな影響を与えたと考えられて
います。


1054年に起きた重力崩壊型の超新星爆発の様子が、藤原定家の
「明月記」の中に記されてい
ます。その名残が、現在観測されている
「かに星雲」です。


                    
                       かに星雲

明月記の現代語訳  1054年(平安時代後半)、5月11日から20日の間の夜中に、新星が
オリオン座の東
に見えた。おうし座のζ(ゼータ)星付近で、大きさは木星ほどだった。





核暴走型 


核暴走型
の超新星爆発はTa(ワンエー)型とよばれ、連星のうちの1つが、白色矮星(はくしょ
くわいせい
であるときに起こると考えられています。連星とは、2つの星がお互いの周りをグル
グル回っている星のことです。連星は珍しく感じるかもしれませんが、実は宇宙全体でみると恒
星のうち、
約70%は連星で、太陽のように単独で存在する星よりも一般的なのです。


この連星のうち、一方の恒星が寿命を迎えて白色矮星になったとします。すると、パートナーで
ある恒星の表面から、
ガスを自分の表面へと引き寄せてしまいます。やがて、白色矮星は重く
なって収縮し、中心温度がぐんぐん上昇していきます。


そして、白色矮星の中に残っていた
炭素の核融合が始まる温度になると、反応が暴走して爆発
します。これが核暴走型の超新星爆発です。


                    
                  
   ガスが流れ込みます



※ このTa型超新星爆発は、その明るさや色が一定であることがわかっています。よって地球
から見た見かけの明るさがわかれば、爆発がおきた場所までの距離が求められます。

宇宙は減速膨張しているのではないかという今までの通説を覆して、1911年、現在の宇宙が
加速膨張していることを発見してノーベル物理賞を受賞した、サウル・パールミュッター(米)
ブライアン・シュミット(豪) アダム・リース(米)らの科学者達は、このTa型超新星爆発を観測
して宇宙の加速膨張を証明したのです。










                (9)  銀河の誕生



 宇宙誕生5億年後頃まで


私たちの太陽系が属する
「天の川銀河」のように、多数の恒星からなる天体を銀河といっていま
すが、どの程度の数の恒星が集まれば銀河と呼ぶのかについての明確な定義はありません。


宇宙で最初にできたのは、比較的少数の恒星からなる
銀河の種(原始銀河)だったと考えられて
います。その後、どのくらいの数の恒星からなる銀河が発生していったのか詳しい過程はわかっ
ていませんが、天文観測からは宇宙誕生から約5億年後には、すでに現在「銀河」とよんでいる
ものと同程度の銀河が存在していたことがわかっています。


そして、銀河は、近くの銀河と重力によって引き合い、衝突・合体を繰り返し、徐々に大きな銀河
へと成長していったのです。私たちの太陽系が属する「天の川銀河」のとなりの
「アンドロメダ銀河
は、地球から約230万光年離れていますが、現在、秒速120kmで天の川銀河に接近している
ことがわかっています。二つの銀河は数十億年先に衝突すると考えられています。




           
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                 (10)  惑星の誕生



 宇宙誕生91億年後


太陽系
は、宇宙誕生から91億年後、今から46億年前に誕生しました。原始の太陽の周囲にガ
スとちりからなる
円盤(原始惑星系円盤)が形成されます。このちりが衝突・合体することで直径
数キロメートルから数十キロメートルの
「微惑星」が誕生します。こうした微惑星がさらに衝突・合
体することで、惑星が誕生していったのです。




                     
                      
原始惑星系円盤



太陽に近い場所は温度は高く、水は気体の状態でしか存在できません。地球は、ほどよい距離
(1.5億キロメートル)にあったので、水が液体で存在しました。また、
火星までの範囲では、惑星
の材料となる円盤のちり成分は岩石や金属が主となるため、そこでは地球に代表されるような
「岩石惑星」がつくられます。


一方、恒星から遠くなると温度が低くなるので、水は氷となり、また惑星の材料が大量にあるため
、非常に大きくなり、また強い重力によって周囲のガスを引き寄せ、ますます巨大化します。こうし
て巨大なコアに大量のガスが積もった
木星土星のような「巨大ガス惑星」が形成されます。


恒星から遠すぎると、原始惑星の成長は遅くなり、周囲のガスを引きつけられず、木星ほどには
巨大化できなくなります。その結果、
天王星海王星のような「氷惑星」となります。



                     








 








                2012年 10月12日(金)


  ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「次世代へのメッセージ」


           
 テーマ 「科学の開国」


 
参加受賞者  野依 良治氏  2001年 ノーベル化学賞
                     理化学研究所理事長

 講演者  
山中伸也氏    2012年 ノーベル医学・生理学賞受賞
                   京都大学iPS細胞研究所所長・教授


           パネルディスカッション〜質疑応答



        
 東京工業大学 蔵前会館(くらまえホール)

   主催 :  読売新聞社
   後援 :  外務省  文部科学省  NHK
   協賛 :  トヨタ自動車 清水建設




 野依先生 基調講演内容 概略


                                                           

      初めに、ルイ・パスツールの言葉を紹介します。

     
「科学に国境はない。しかし科学者には祖国がある。」


まず私たちは現在の時代認証から始めなければなりません。

@ 人口爆発  A 地球環境の変動 B エネルギー資源の枯渇

これらは現代文明が抱えている問題です。そして日本は人口減、財政難で競争力が低迷しています。生き残るには、科学技術力を強化し、国力の源泉にするしかありません。

今年のノーベル医学・生理学賞に決まった山中教授を考えても、日本人の潜在能力は非常に高いのです。

フリードマンの言葉に、
「The World is Flat.」というのがありますが、これは科学技術の標準モデルで、若者達の生きる力と国の競争力・協調力により、社会核心に向けた統合システムを構築する必要性を意味しています。

また今は
イノベーションの世紀ですが、イノベーションとは単なる技術革新ではなく、「社会を変革する価値の創造」のことを言います。

          科学技術による価値創造とは?

@ ヒトの平均寿命が45歳から80歳まで伸びたこと

A 人間の能力を外的に拡大

B 巨大な経済効果


アメリカでは「人間の活動の85%は科学技術のイノベーションによる」と言われています。強い科学技術なくしては生きていけないのです。

そして科学技術の空洞化を避け、国力の源泉として主体性のある活動を維持するためには、自らが十分な力を培うと共にモノ・カネ・情報の均衡のとれた出入りが必要です。

さて日本の科学は国際競争力があるのか?ということを考えて見ると、基礎科学は山中教授のノーベル賞受賞もあり満足できます。

ただ科学技術立国として私が願っているのは、日本で研究した外国籍の研究者がノーベル賞を受賞することです。それによって初めて日本が
科学独立国になったことの証明になると思います。日本が魅力のある研究ができる場になって欲しいと思います。



          ここで少し私の自己紹介をします。

1966年、私は京都大学で
不斉触媒の反応の原理を発見しました。そして1980年、名古屋大学で不斉水素化学反応の実験に成功し、それが2001年のノーベル化学賞につながりました。

今ではそれが様々な分野で産業化され、メントールなどの香料や医薬品の不斉合成プロセスに利用されています。



さて21世紀では、
グローバルな知識基盤の構築が必要で、今世紀の指導者たる資格は自らの文化に矜恃(正しくはきょうじ・慣用的には、きんじで、意味はプライド)を保ちながら世界を俯瞰(ふかん)し、多様な価値観を持つ多国籍集団を束ねる能力の具備です。

広汎な文化的背景・文明環境は科学だけでなく芸術にもいえることで、例えばパブロ・ピカソはパリに住むスペイン人でありました。

TPP・FTAに十分耐えうる力がないのは、今の日本の科学技術・高等教育が、国際共通モデルに適合しない特殊構造を持つことにあります。

言語障壁・日本独特の慣習、また法的規制により鎖国状態にあるのです。


ところで、ゲーテの言葉で「知るだけでは不十分、
知の活用が必要。 また意志だけでは不十分、実行が必要である。」というのがあります。ゲーテのこの言葉は、200年後の今も通じています。

基礎科学での個人の「ひらめき」を技術革新につなげるには、教育界や経済界、行政などが連携し、
全世代が参加して実現する仕組みが必要です。

そしてこれを遂行していくためには、社会総がかりで統合システムを作り上げていかなければなりません。それに必要なのが次の4つです。


   
 


Sは、Science (科学)  Tは、Technology (技術)   
Eは、Engineering (工学) Iは、Innovation (社会的・経済的価値創造)です。


最後に人類の最優先課題をいくつか挙げたいと思います。これは、ヨハネスブルグサミットで、コフィー・アナン総長が記したものです。

 Water 水 
 Energy  エネルギー
 Health  健康・医療
 Agriculture  農業
 Biodiversity  生物多様性
 +  
 Poverty  貧困問題

これらの課題を解決していくためには科学の力が必要です。日本は科学技術の開国をしなければなりません。その担い手は若い世代です。私は若い力に期待しています。







  山中先生 講演内容概略



                                                            





こんにちは。午前は横浜で講演があり、お昼は田中文科相とのお昼ご飯で話が弾んでしまい、到着が少し
遅れてしまいました。申し訳ありませんでした。


私がなぜマラソンを走ったのかというのが今日の主題です。一つは走るのが好きだからですが、もうひとつ
の理由についてお話したいと思います。

私は
整形外科医を志し、神戸大学を卒業後、一度は臨床医になりました。しかし、その後基礎医学の研究
に転身しました。「基礎医学にひかれ、臨床医から転身した」と言えば格好がいいですが、本当は手術が下
手で外科医をあきらめたのが理由の80%を占めます。


私は、1993年に
ノックアウトマウスの技術を学ぶためにアメリカへ留学しようと思い、いろいろな機関に
「私はこういう研究をしたいのだ」と何十通も履歴書を送りましたがどこも雇ってくれませんでした。そして、
やっと採用してくれたのが、
「グラッドストーン研究所」でした。

ノックアウトマウスというのは、特定の遺伝子のはたらきを失わせたマウスのことで、このマウスを観察す
ることでその遺伝子の役割を調べる技術です。

アメリカに留学中、私の指導教授であったメーリー先生に教わったのは、科学者として成功するためには
「VWを忘れるな」ということでした。彼は長年フォルクスワーゲンに乗っていたので、初めは何のことか分
からずに、科学者になるには「
フォルクスワーゲに乗れ」という意味かと思いましたが、あとで「VW」とは
「Vision and Work Hard」の略で、「ぶれないビジョンを持ってしっかりはたらきなさい」ということだと教え
ていただきました。


                           


しかし、VISIONを持つことは非常にむずかしいことです。基礎研究を医学の応用に結び付けるには、10
年〜20年先に向けての仕事になると思いました。

私は1997年にさまざまな事情があり、自分の意志に反して帰国することになりました。そして日本に戻っ
てから
「PAD」という重い病気になりました。PADとは、「Post America Depressin」の略で、日本語にす
れば「アメリカ後うつ病」です。正式にこのような病気があるわけではありません。アメリカ留学経験の仲間
と勝手につけた病名です。

アメリカでは研究施設も整っていて、同僚達とのディスカッションも充実していましたが、帰国してからは実
験用のマウスの飼育もうまくできず、また相談相手もいなくて、つらい時期がしばらく続きました。

そのようななかでも、留学中に調べていた遺伝子が、たまたまES細胞に非常に重要なだとわかり、それか
らはES細胞に興味を持ち、大阪市立大学でその遺伝子の解析を続けていました。

そして1997年12月、
奈良先端科学技術大学に助教授(今の准教授)として移り、自分の研究室を持つ
ことができました。37歳の時です。そして「皮膚細胞を採取して、それをリプログラミングして受精卵に近
いES細胞のような細胞を作る」 これを研究室のVISIONとしたのです。

2006年にマウスで、2007年にはヒトで、体細胞に遺伝子を導入して受精卵に近い状態に戻すことがで
きました。この時に研究室に3人の学生が在籍していましたが、この人たちこそが
iPS細胞作成の立役者
となったのです。

一度分化した細胞を万能にするためには、まず初期化に関わる遺伝子をみつけなければなりません。
25000個あるといわれるヒトの遺伝子の中から初期化に必要な遺伝子を探すのは大変なことです。

その時にEST(臓器や細胞毎にどの遺伝子がはたらいているのかを調べた遺伝子のカタログ)を使おうと
思っていたところに理化学研究所(林崎良英先生のチーム)から、ES細胞由来のESTや体細胞由来の
ESTが大量に公開され、そのデータベースから意味のある遺伝子を
100個くらいにしぼり込むことができ
たのです。

そして、ES細胞に特徴的なタンパク質をつくる
24個の遺伝子を有力候補として、それをマウスの皮膚細
胞に送り込んだところ、ES細胞とそっくりな細胞となりました。そしてこの中で本当に必要な遺伝子を探す
ために、どれか1つだけを差し引いた
23個をいっぺんにあたえたところ、初期化が起こる場合と起きない
場合とがありました。

このうち初期化が起きない場合に差し引いた遺伝子が初期化になくてはならない遺伝子だとわかり、この
方法によって、初期化に必要な
4個の遺伝子を割り出しました。そしてこの4個の遺伝子を組み合わせて
マウスの細胞に与えたところ、ES細胞に似た細胞ができたのです。これがiPS細胞です。

この時のアイデアは、一緒に研究していた
高橋和利君(現在は講師)が考えました。ですから彼を初めとし
たスタッフがいたからこそ、iPS細胞が誕生したのです。



               

※ 山中教授のチームがつくりだしたヒトのiPS細胞です。中央の大きな円状のものは1個のiPS細胞では
なく、
数百個のiPS細胞がかたまりになったものです。画像の横幅は、約0.5mmです。






 iPS細胞の現実的な活用について


iPS細胞の利用についてですが、いきなりiPS細胞で臓器をつくるというのはまだ先の話です。現実的に
活用が期待されているのは、パーキンソン病やアルツハイマー病などの
治療法が見つかっていない病気
の原因解明や、新薬の効果を試す役割です。


しかし、動物実験ではiPS細胞を移植して機能が回復した例があります。このビデオをみてください。かわ
いそうですが、左に映っているマウスは操作により脊髄損傷をおこさせたもので、歩けない状態になって
います。

このマウスにヒトiPS細胞由来の細胞を移植したところ、どうなったかは右の動画を見てください。ご覧いた
だいている通り、歩けるようになり飛び跳ねるまで回復したのです。うれしくてマウスが何となく笑っている
ように見えませんか? この
脊髄損傷の再生医療については共同研究者である慶応大学の岡野栄之(ひ
でゆき)先生
が専門に研究されています。


                         


また現代の難病の一つに
ALSというのがあります。正式名称は「筋萎縮性側索硬化症」といいます。
これは運動神経の細胞に異常が起きる病気です。脳から筋肉に命令が伝わらないのです。ですから体を
動かすことができません。

ALSの原因を知りたくても運動神経の細胞は、取りだして調べることはできません。それがiPS細胞で可
能になったのです。患者さんの皮膚からiPS細胞をつくり、さらに
 ※運動神経の細胞に作りかえると、目
の前で病気を発症する様子を観察することができます。本来数十年かけて発症する病気の進行を数週間
で再現できるのです。


 ※塾長補足

患者さんの皮膚の細胞からiPS細胞を作り、それを運動神経に作りかえても、それは患者さんの遺伝情
を持ったiPS細胞
ですから、同じ病気を再現できるのです。しかし、病気を治療するためにiPS細胞を
移植する場合は、そのまま移植してもうまくいきません。

それでは、どうすればよいかというと
「相同性組換え」という手法を用います。iPS細胞は特定の遺伝子を
操作することが可能であると考えられています。患者さん由来のiPS細胞を用意して、病気の原因となっ
ている
遺伝子を修復すことができるのです。その修復済みのiPS細胞から運動神経のiPS細胞を作っ
て移植すれば、ALSの治療が可能になります。ただ身体全体には膨大な数の神経細胞がありますので、
全て移植するとなると大変な労力が必要です。しかし、このような新しい技術の実現に向けた研究が実
際に始まっています。





新薬の開発
についても、iPS細胞を利用することができます。例えば皮膚の細胞を初期化し心筋細胞を
つくり、それに開発中のクスリを投与して
重大な副作用がないかどうかを調べることができます。

新しい医療を作る場合、優れた基礎科学者による成果だけではダメで、倫理・特許・規制・資金・産学連携
なそ、ジグソーパズルのようにピースが揃わないと実用化には至りません。


私たちの研究所である
CiRA (Center for iPS Cell Research and Application サイラ)は2年前に設立
され今年で3年目を迎えました。ここCiRAでは10年間で達成する目標を4つ掲げました。


@ 基盤技術の確立と知的財産の確保(特許の取得)

   基本技術の特許の取得については特定の組織や企業に独占させないためにとりました。

A 再生医療用のiPS細胞作成とそのストックシステムを構築

B 安全性が確認できたiPS細胞の臨床研究の開始

C 患者由来のiPS細胞を使った治療の開始


 ※ 現在、CiRAではすでに
創薬のプロジェクトが開始され順調に進んでいます。


@の知的財産の確保については非常な困難がありました。論文の競争では普段から慣れていたのですが
、知財競争は訓練していなかったので、現在ではCiRAではその専門家に担当していただいています。基本
特許の獲得につながる非常に重要なプロテクターの役割を担っています。その中に京大職員は入っていま
せんが・・


                







  日米の研究について


2007年にグラッストーン研究所でも研究室を持つことになり、今は日本人とアメリカのポスドクが2名ずつ
在籍しています。私も月に1回は片道10時間かけて通勤しています。(2泊くらい滞在します)

ここで日本とアメリカの研究環境について比較したいと思います。

   研究施設  知的財産に対する意識  研究者への支援
研究者の社会的地位
 1990年頃  日本=アメリカ  日本<アメリカ  日本<アメリカ
 現在  日本<<アメリカ  日本<<アメリカ  日本<<アメリカ


私がアメリカへ初めて行った頃は、研究施設は日本もアメリカもそれほど大差はないと思いました。しかし
、研究者支援や、研究者同士が交流しやすい環境作りの面ではグラッドストーンのほうが進んでいました。
今のアメリカの研究施設は大学を含めて
オープンラボ形式で、とても開放的であり近代的でもあります。

※オープンラボとは、実験スペースを複数の研究者が共有する交流のしやすい環境空間を持つ研究室
(CiRAでは、オープンラボを採用しています。)

そして、アメリカでは自分の研究に没頭できますが、私がマウスのES細胞を研究していたときはマウスの
世話まで全て自分でしなくてはならず、なかなか研究を理解してもらえない状態が続いていました。

また国からの研究費も、今では毎年20億円以上の支援を受けていますが、期限がある競争的資金のため
雇用財源としては不安定です。
 ※ (アメリカのカリフォルニア大学は10年で3000億円)


私たちのCiRAでも正職員は限られています。CiRAでは約
200名の職員がいますが、正規雇用は1割で、
他は3年とか5年の期限付きの研究費で雇用されている方たちが
180名います。彼らをいかに10年単位
できちんと雇用していけるか、さらに正社員として雇用していけるのかが今の最大の課題です。


初めにお話したように私は走ることが好きで大学生の時から続けています。普段は昼休みに研究所の付近
を流れる鴨川に沿って走っています。
フルマラソンは今まで何回も挑戦しています。2012年3月11日には
京都マラソンに参加し、完走しました。(
記録は4時間3分19秒

                   

その時に参加していたランナーに言われた言葉には思わず笑ってしまいました。「
先生、マラソンより研究
んばってください!


私はこの時、完走することを条件に財政難な研究所に寄付をしていただくようにお願いしたところ、1000
万円が集まりました。非常に嬉しかったのですが、人件費をすべてまかなうためには、私は1年間に
80回
フルマラソンに出場しなければなりません。


ノーベル生理学・医学賞受賞決定の発表以後、iPS細胞研究基金へのご寄附も多数いただきました。みな
さまからのご寄付は、私のみならず研究所教職員一同が大きな力をいただいております。いただいたご寄
附は、優秀な人材の雇用や知的財産の確保、そのほか研究活動に有効に使わせていただきます。

みんなで頑張ってパズルの完成を目指しています。今後とも、引き続きご支援よろしくお願い申し上げます。










     ネルディスカッション〜質疑応答


パネリスト    野依 良治先生   山中 伸也先生

コーディネーター  横山 広美さん(東京大学大学院准教授)




            「夢をつかむにはどのようにしたらよいですか?」

                          


  野依先生 

「山中先生がおっしゃったようにビジョンを持つことが大事です。多くの偶然の中にわずかな必然があります。
幸運をつかむためには、そのための準備をしておくことが必要だと思います。


  山中先生  

「言い古された言葉ですが、”失敗は成功のもと”というのがあります。幸運をつかもうと思ってもその前に失
敗を何回か繰り返していないとつかめません。失敗すれば失敗するほど幸運は来ます。

今のうちに、たくさん失敗して挫折してください。1回成功するには平均9回くらいは失敗をしています。人生も
実験でもそうです。私自身の経験からそう思っています。そして失敗すればするほど
幸運にめぐり会う確率
高くなります。今日の会場には高校生も来ていますが。若い間にいっぱい失敗することは決して恥ずかしいこ
とではありませんよ。」


                        




  「将来活躍するチャンスを得るためには、いつ海外に出て行ったらよいでしょう?」

                         


  野依先生

「それにはいろいろなパターンがあると思いますが、私の感じでは日本の文化も非常に大切なので、大学ま
では、日本でしっかり勉強し、大学院で出る、または博士号を取得したあとで行くのもひとつの方法ではない
かと思っています。

”ブレインサーキュレーション”といいますが、日本から外国へ行きそこで研究し、また戻ってくる。また外国人
の研究者が日本で研究する。そのような環境をととのえることが必要だと思います。」


                        


  山中先生

「私はいつ行くかよりも、何をしに行くかが大切だと思います。そして研究だけでなく”人の輪”を広げていって
欲しいと思います。アメリカ人の友達をたくさん作る。またどれだけアメリカの研究者と交流を広げられるかが
大切だと考えています。

科学雑誌の
「ネイチャー」に論文を載せてもらうために、エディターと積極的に友達になるのもよいかもしれま
せん。いろいろと交流を深めておくことです。それだけで論文が掲載されるわけではないのですが・・


  野依先生

「そうですね。アメリカに行くと必ず家に招待されます。彼らは自分の家に呼んで、料理を振る舞ってくれます
。そしていっしょにワインを飲んで語り合います。そういう関係を築くことが大切です。」


  山中先生

「語学を身に付けるだけなら、できるだけ若いうちに行った方がよいと思います。」 しかし外国人と話すとき
は、発音ではなく、”何を話すか、どのくらい心がこもっているか」が重要です。

わたしは、アメリカでレストランの場所を聞こうと思い、アメリカ人に
"Where is the restaurant ?” と言った
、”restroom” レストルーム(トイレ)の場所を教えてもらったことがあります。

でも、一般的に日本人の英語と言うことで、アメリカ人は何を言っているのか、理解しようと注意深く聞いてく
れるのは助かります。









    「最近、日本の論文数の伸びが鈍っているのは何が原因なのでしょうか?」


                          


  野依先生

「ひとつには大学の環境劣化が挙げられると思います。アメリカでは自分の時間の90〜95%を研究に費や
すことができますが、日本ではすべて自分でしなければならず、自分で使える時間が減っているのが現状で
す。」


   山中先生

「研究支援者の数が足りないのではないかと思います。アメリカの研究者は自分の研究に没頭できますが、
わが国では自分で実験動物の世話までするため、そのような時間が研究時間の不足につながっているのは
ないかと思います。」










 質疑応答



             時間の関係で質問者はひとりになってしまいました。



 質問

横浜市立・横浜サイエンスフロンティア高校3年の・・・です。   ES細胞の倫理観は、以前からいろいろと
議論されていますが、山中先生は
iPS細胞の倫理観についてはどう考えられていますか?



 山中先生

まず思っているのは、「将来、悪用されないか。」ということです。新しい技術を受け入れるかどうかは、社会
全体の判断
にゆだねられると考えます。

その社会の方々に考えてもらう役割を担っているのが倫理学者の先生たちです。彼らには
科学者一般の
人たち
の間に入ってコンセンサスをとっていただくことが必要になってくると思います。



私たちはもともとES細胞の倫理的問題を解決するためにiPS細胞を作ったのですが、iPS細胞にはES細
にない別の問題があります。ES細胞は、限られた研究機関や研究者にしか作れませんが、iPS細胞は、
生物研究室なら
どこでもできてしまいます。採血した血液や髪の毛1本からでも作れます。

マウスではすでにiPS細胞から精子や卵子の生殖細胞が作り出され、そこから実際に子マウスも生まれてい
ます。ヒトiPS細胞から完全な精子や卵子を作り出すことは禁止されていますが、理論的には可能です。で
すから、iPS細胞技術が、
※新たな倫理問題を引き起こす可能性は十分にあるのです。

※ iPS細胞の手法を応用して、精子と卵子を作れば、親がいなくても新たな人間を生み出すことが可能に
なります。



しかし、iPS細胞の研究はこれからずっと続けていかなければなりません。それは現在、難病に苦しんでいる
方や病気の治療法がなくて亡くなっていく方がたくさんいらっしゃるという事実があるからです。

研究者にとって大切なことは、一人ひとりの
モラルを高めること、そしてiPS細胞を扱う研究機関や研究者は
ガラス張りで研究していくことだと思います。

















                
2012年9月29日(土) 

     
理化学研究所&横浜市立大学鶴見キャンパス一般公開
 
    放射線・ゲノム・がん〜シーケンス拠点の必要性

     林崎良英  理研横浜研究所 オミックス基盤研究領域長



   
 今日は8人の科学者の講演です。  林崎先生
   
 遺伝情報の全てをゲノムといいます。  遺伝現象を担い、タンパク質を作ります。
   
 DNAは修復・制御作用をもっています。  制御が狂うと壊れたDNAを複製します。



DNAの変化は、自身の複製ミス以外にも外的要因によって起こる場合があります。
その原因となるのが、体内に侵入したウィルスや、刺激によってDNAを傷つける

射線
紫外線化学物質の類です。

さまざまな外的刺激によってDNAの一部が壊れて変化してしまったとき、その変化
によって制御が狂って細胞が異常な増殖を繰り返し、壊れたDNAを複製し続けるこ
とがあります。それが、がんという病気です。


   
 それぞれの意味が異なります。  放射線の種類
   
 分裂により放射性物質がでます。  放射線のエネルギーがDNAを傷つけます。
   
 放射線の透過能力の違い  放射線はがん治療にも使われます。
   
 放射線の影響が大きい組織  影響が少ない組織
   
 本日のまとめ  さまざまな質問に答えています。




放射線が人体に及ぼす効果について私たちはもっと理解を深めるべきだと考えます。
原発事故をきっかけに、放射線の人体への影響が世の中の関心を引きました。

しかし、
シーベルト(Sv)ベクレル(Bq)をはじめとした耳慣れない用語や概念は、
その意味が正確に理解されずに不安をあおったり、風評被害など望ましくない事態を
招いています。

また事故後には様々な基準値が注目されましたが、”基準値の意味”が十分に理解さ
れておらず、検査結果に一喜一憂したり、基準値の変更に翻弄されたりするようなこ
ともおきています。

放射線の外部被曝や内部被曝でDNAが傷つくと、急性(早発性)や晩発性の放射線
障害が起こります。被曝で我々の体にどのような生体反応が起きるか正しく理解する
ことが、各人が放射線から身を守る唯一の手段でしょう。


オミックス基盤研究領域はDNAやRNAの遺伝暗号を解読・解明してきた拠点です。
恒久の障害となる
DNAのキズ突然変異に関して、これまで遺伝暗号を解いてきた
立場から、なるべくやさしく知識の一端をご紹介できればと思います。






        まず、言葉の正確な意味を理解してください。



放射能とは「放射線を出す能力」のことをいいます。

その放射線の特徴は、@ 目に見えない光、または早く遠くまで飛ぶ微細な粒子 
A 
人のDNA(遺伝子)を傷つける可能性がある。 B モノや壁である程度遮ること
ができる。 などがあります

B 
放射性物質の定義は、@ 放射線を出す物質の総称 A 衣類などに付着して
運ばれる。
 B 風で輸送され、雨により大気中から降下する。 C 時間と共に力
(放射能)は弱くなる。 などです。

この放射線物質の出す放射線がだんだん弱くなり、もとの量の半分になるまでの時間
「半減期」といいます。

   



 ※ 塾長注

スライドに載っている放射性物質以外には半減期が非常に長いものもあります。

ラジウム226は、1600年 プルトニウム239、2万4000年 カリウム40
13億年 そして原子力発電所で燃料として使われているウラン2357億400
万年
 ウラン238は、45億年です。

地球が誕生したのが約46億年前ですから、もし地球が出来たときにウラン238
があったとしたらその能力は今やっと半分になったということです。逆に、短い物
質では
ラドン2223.8日という例もあります。









              次は
放射線の正体についてです。


放射線は原子核がおちついた状態になるために放出されるエネルギーです。その主
な種類として、
アルファ線(α線)・ベータ線(β線)・ガンマ線(γ線)・中性子線があり
ます。



          
                  
   東京電力HPより



                @ アルファ線
 
数多くの陽子や中性子からできている重い原子核からは、陽子2個と中性子2個がひ
とまとめになったヘリウム原子核が出ます。このヘリウム原子核がアルファ線です。



               
 A ベータ線

原子核の中性子が多い場合、中性子が陽子に変わる時(ベータ崩壊)に出る電子が
ベータ線です。



               
 B ガンマ線

アルファ線やベータ線が出た後、さらにおちついた状態になるために出されるエネル
ギーが、ガンマ線です。ガンマ線は波長が非常に短い電磁波でもあります。



               
 C 中性子線

ウランに中性子があたって核分裂をする際、2〜3個の中性子が放出されます。それ
を中性子線といいます。





 放射線の透過能力


放射線にはいろいろな種類がありますが、それぞれ物を通り抜ける力が異なります。
しかし、厚いコンクリートであれば全ての放射線を遮断することができます。



   











塾長補足



 シーベルトとベクレル





放射線による人体への影響度合いを表す単位を「シーベルト(Sv)」、放射性物質が
放射線を出す能力を表す単位
を「ベクレル(Bq)」といいます。

放射性物質にはさまざまな種類があり、放射性物質によって、放出される放射線の
種類やエネルギーの大きさが異なるため、これにより人体が受ける影響は異なりま
す。

このため、放射線が人体に与える影響は、放射性物質の放射能量(ベクレル)の大
小を比較するのではなく、
放射線の種類エネルギーの大きさ放射線を受け
身体の部位
なども考慮した数値(シーベルト)で比較する必要があります。


    
                    
東北電力HPより







 自然界からの放射線

自然放射線には、宇宙、大地などの外部から受ける放射線と食物摂取空気中の
ラドン
などの吸入によって体内(内部)から受ける放射線があります。

その「自然放射線」の量は、一人あたり年間
約2.4ミリシーベルト(世界平均)です。



   
           
    「原子力・エネルギー」図面集2012




 食品中のカリウム40

カリウムは動植物にとって必要不可欠な元素で,食品中に含まれるカリウム40の濃
度はかなり高く、白米1kg中の放射能強度は
約30ベクレルです。生物学的半減期
30日とされています。飲食で人体中に取り込まれるカリウム40の放射能強度は
1日あたり
約50ベクレルですが、人体中の余分のカリウムが排出されるのに伴って
1日あたり同量が排出されます。

カリウム40は天然に存在する放射性物質の中で内部被曝による線量が大きいもの
の一つですが、カリウムの体内量は常に一定に保たれているため、食事による被曝
量の変化はありません。


     










 放射線の有効利用




     
                    電気事業連合会HPより





         透過力の利用

例えば、透過力は、普通では見えないものを見させてくれます。病院等で、体内を検
査するX線検査はその例です。体内に限らず、構造物の内部など外部から直接検査
できない場所などを調べる
「非破壊検査」もよく知られている放射線利用の一つです。






       動・植物への影響の利用


@ ジャガイモの発芽抑制



ジャガイモに放射線を当てると、発芽が抑えられ
長期保存ができます。
日本ではジャガイモへの照射(放射線を当てること)だけが許可されていますが、香辛
料やタマネギへの照射をしている国もあります。




A 害虫駆除のための不妊化

沖縄にはウリミバエという、日本では沖縄だけに生息する、くだものや野菜の害虫が
いました。このため、沖縄以外にこれらの産物を出すことを禁じていましたが、およそ
20年間がかりで放射線不妊化による駆除に成功し、自由に販売することができるよ
うになりました。




B 体に優しい重粒子線


放射線によるがんの治療も、生物の細胞に影響を与える作用を利用したものです。
その中でも、現在最も期待されているのが「重粒子線治療」です。

X線など従来の放射線を体に当てると、体の表面近くが一番強く、体の奥へ向かうほ
ど弱くなっていきます。そのため、深いところにあるがんの治療は難しく、放射線の通
り道である、正常な細胞も傷つけてしまいます。

一方、粒子線は、特定の深さで大きなエネルギー放出する性質を持っており、そこに
できるエネルギーのピークを「ブラッグ・ピーク」と呼びます。

粒子線がん治療では、このブラッグ・ピークの深さや形を機器や器具を用いて、ひとつ
ひとつの腫瘍の深さや形に合わせることにより、正常細胞への影響を少なくしながら、
がん細胞に粒子線のエネルギーを集中させる事ができます。

つまりは、粒子線がん治療は、正常細胞への副作用を少なくしながらもがん細胞を
ねらって照射
ができる、効率的で体にやさしい放射線治療です。


※  重粒子線は粒子が大きい上、電荷も持つので、体内の水の分子などと何度も
突しながら進みます。衝突でエネルギーを失って、体内のある地点に止まり、一気
にエネルギーを放出します。

これをがん細胞で行うように設定すれば、正常細胞を傷つけずにすみます。肺や肝臓
がんの初期なら、1〜2回の照射で治療が終わります。






                       

治療に使われる重粒子線は、メタンガスに電子ビームを当てて取り出した炭素の原子
核が
イオンの状態になったものです。



 ちょっと難しいイオンの説明


         
炭素イオン生成のしくみ

プラズマの中で電子が加速され、高速になった電子がメタンガスの分子に衝突する
と炭素イオンが生成されます。

メタン(CH4)炭素原子1個水素原子4個電子10個からできています。これに高
速の電子が衝突すると、水素や電子がはじき飛ばされ、炭素のイオンが発生します。


炭素の原子は通常の場合、炭素原子核の周囲に
6個の電子を伴っており、電気的に
中性となっていますが、周囲を回転している電子を失うと全体としてプラスの電気が
多くなるため、イオンとなります。

例えば電子を2個失って、4個の電子が残った場合、炭素は
2価イオン(C2+)、電子
を4個失い、2個残ったものは
4価イオン(C4+)となります。これらの炭素イオンが粒
子線として治療に使われています。



      
メタン(CH4)        炭素2価イオン(C2+)     炭素4価イオン(C4+)














      2012年 9月22日(土) 川崎図書館サイエンスカフェ
  
     ”アインシュタインと21世紀の科学”


講師は早稲田大学教授 小山慶太氏

 9月の「光より速い素粒子発見!」という新聞記事についての解説から始まりましたが、とても興味深いものでした。

今回、光より速いという観測結果が出たのは
”ニュートリノ”ですが、すでにニュートリノには若干ですが質量があるということがわかっていて、「重さがある粒子は光速を超えられない」という大前提があるのでアインシュタインの相対性理論とは矛盾し、もしこの観測結果が事実だとすると、これは現在の物理学を根底から揺るがすことになりニュートン力学以来の大変な時代になるということでした。

その後は
「重力波」「ボース・アインシュタイン凝縮体」「反物質」などの説明から量子論、宇宙の未来の話へと続き、それらはすべてアインシュタインの理論から導かれたもので、いかにアインシュタインが偉大であったかと力説されていました。

 考察


          
                                    
           今回の国際研究チームによる実験内容

CERN・ヨーロッパ合同原子核研究機関(スイス、ジュネーブ郊外)からニュートリノを発射し、地下を進み、730km離れたグランサッソー地下研究所(イタリア中部)の検出器までの時間を計測したところ、0.0024秒で到着し、これは光より1億分の6秒(60ナノ秒)速いという結果で、光より0.0025%ニュートリノの方が速いことになります。


                      
       CERN研究所     0.0024秒    グランサッソー検出器
         


距離については、GPSを使って使って精密な測定が行われ、時間の測定には原子時計が利用され、発生源と検出器の時計の時刻合わせは、誤差1ナノ秒(10億分の1秒)の精度で行われたということです。    
             



                 
                                                 疑問点

過去において「超新星1987A」の観測結果が残っています。約16万年光年彼方の大マゼラン雲にある「超新星1987A」の大爆発により大量のニュートリノが放出されました。そしてそれらのニュートリノを1987年に岐阜県の東大観測施設「カミオカンデ」が検出しました。この観測結果ではニュートリノと光はほぼ同時に地球に到着したといわれています。

光とニュートリノは宇宙空間を16万年かけて進み、地球にほぼ同時にたどり着いたのです。しかし今回の実験結果の「ニュートリノは光より0.0025%速い」とすると、ニュートリノの方が約4年早く地球に到着していなければならず、カミオカンデの観測と国際研究チームの実験結果は矛盾しています。



               
                                                    ブレーンワールド仮説

ニュートリノが”高次元の近道”を通ったために、光より速く進んでいるように見えたのではないか」という説です。最新の宇宙論では「高(多)次元空間」という3次元を超えた空間が存在するのではないかという予測があります。

私たちの住む3次元空間は、高次元空間に浮いた膜(ブレーン)のような存在であり、アインシュタインの一般相対性理論により空間は重力により曲げられているので、光の経路は曲がったブレーンに沿って進みます。

地球の表面のA地点からB地点に行く場合、光は曲がりながら進みますが、もしそこに直線的に進むことができる高次元空間があり、ニュートリノがそこに飛び出すことができるならば、
高次元空間を近道することになりニュートリノの速さが光速未満だったとしても、見かけ上、光よりも速く3次元空間のA→Bを移動できることになります。

ニュートリノの方が進む空間の距離が短いので、実質、光より遅くても見かけ上”光よりも速い”ということになります。



           
光の経路 (私たちが住んでいる3次元空間のブレーン)
                        
                  
                   
A        
                  
                        
              
ニュートリノの経路 (直線の高次元空間





                                                                 









  2012年 3月3日(土)
 
理研横浜 サイエンスカフェ 2012



            細胞が運命を決めるとき

 谷内一郎先生   理研 免役・アレルギー科学総合研究センター
            免役転写制御研究グループ・グループディレクター



                      県立川崎図書館
   
 感覚器からの反応は脳に伝えられます。  免役はからだを守ります。
   
 自然免役の仕組み  獲得免役は自分と他人を見分けられます。
   
 リンパ球は抗原を感知します。  異物を区別できる細胞を選択します。
   
 胸腺細胞はヘルパーかキラーになります。  遺伝子発現を調節するのは転写因子













 2012年 3月4日(日)
 
理研横浜 サイエンスカフェ 2012


    ゲノムってどうやって調べるの?どう役に立つの?

  
 カルニンチ ピエロ 先生    理研オミックス基盤研究領域
                      ゲノム機能研究チーム リーダー



                
  横浜市 中央図書館





   
 あと数年で2〜3万円でできます。  プロモーターがついて転写が始まります。
   
 RNAをコピーしてマッピングします。  異常のある部分を見つけます。
   
 質疑応答の時間です。  わかりやすい説明です。




















  2012年 1月21日(土) 
 
緑区エコ講座



        ツバル・南極からみる地球温暖化


              にいはる里山交流センター




                                                             

写真家 水本俊也(しゅんや)氏が、海面上昇の危機にあるとされる南太平洋の島
「ツバル」、氷の大陸「南極」を旅し、見てきたこと、感じたことなどを現地で撮影した
写真とともに紹介しながら、参加者と一緒に地球規模で進む温暖化の”今”につい
て考えていきました。
 


              写真家 水本俊也氏  プロフィール


         1972年生まれ  鳥取県出身  横浜市在住
 

学生時代にヨット部に在籍、海をこよなく愛す。客船写真師を経てクルーズを中心とした
船旅カメラマンとなる。新聞、雑誌などで作品を発表する傍ら、客船会社のポスター、カ
レンダーなども手がける。

ここ数年で4度訪れた青と白の世界・南極に魅了され、様々な媒体で作品を発表。同時
に、地球温暖化などの環境問題にも写真活動を通じて積極的に取り組んでいる。



 PART 1  ツバル

     
十日市場「にいはる里山センター」内の旧民家の和室で講座が始まりました。ツバルには10年前、車は4台しかなかったそうです。今は数百台あるということですが・・人口は約1万人でポリネシア系の文化圏に属しています。現在、週2便の飛行機がフィジーより運航されています。




     
面積は26kmで、9つの島々からなり、そのうちの8つの島に人が住んでいます。首都はフナフチ島です。ツバルを東京湾の位置に持ってくると上の方にすっぽり入ってしまいます。海抜の平均は1.5m、最も高いところで4.5mです。また国の幅は一番広い場所で700m、狭いところは1.5mしかありません。そのツバルへ水本さんは車2台分の広さのヨットで向かいました。




     
 自給自足の生活が中心になっています。海の幸に恵まれ魚介類が食生活のもとです。





     
海水の浸食により海岸が削られ、樹木が倒れそうになっています。中央の写真は年に2回おとずれる大潮によりサンゴ層からなる中央の地面から海水がしみ出してきた時のものです。右の写真は大量のゴミが捨てられている海岸です。おもなゴミは最近増えてきた輸入品です。








                                                

あと何年後に水没するかいうことの確認は出来ていないそうですがその危機にあるというのは事実です。










 PART 2  南極

     
水本さんが上陸された部分はアルゼンチンに近い南極半島というところです。大きな船による観測ツアーだと上陸期間が短く、南極に行かれる場合は小さな船の方が滞在期間が長いのでこちらの方がお勧めだそうです。

南極の夏は
12月〜3月で、また平均気温はマイナス3度℃から4℃くらいで極寒という感じはないそうです。水本さんご自身の体験から日本の冬と比較した場合、日本の冬山の方が格段に寒いという感想を述べられていました。





   
南極に生息する生物です。ペンギンの種類はヒゲ・アデリー・ジェンツーなど17〜18種類もあるそうで、ちなみにロッテのクールミントガムのペンギンはアデリーだそうです。






                                                 

南極半島は50年間(半世紀)で平均気温が3℃上昇しました。徐々にですが気温は確実に上がっているのです。南極の氷の平均の厚さは2000mで最も厚いところは8000mと言われています。もし南極の広大な氷がすべて溶けると海面は60m上昇する計算になります。

温暖化の影響で、最近の南極では子ペンギンの凍死が目立つようになってきました。温暖化でなぜ凍死するのかというと、今まで雪が降っていたのが気温の上昇で雨に変わり、撥水(はっすい)ができない子ペンギンは雨にぬれたまま気温が下がった時に凍ってしまうのだそうです。かわいそうな話です。

今現在、南極の氷だけでなくヨーロッパのアルプスの氷河もこの数十年間でかなりの量がとけているという事実があります。これも温暖化による現象なのでしょうか。将来の海面上昇にどう影響してくるのか、検証されているところです。











 2010年 11月30日




 横浜市 生物多様性 事例発表会







横浜市開港記念会館「横浜市・生物多様性・事例発表会」がありました。市の環境創造局の方々が生物多様性について、野鳥・河川・農業・森の管理という多方面からの関連性をスライドを使って詳しく説明されました。


そして休憩をはさんで特別講演として Ann McDonald (プログラムには「あん・まくどなるど氏とひらがなで書いてありました)さんが、
「里山・里海の可能性について」という題目で人と自然との共存という課題についてお話しされました。

国内・国外の農・山・漁村を体験取材してきた様子をスライドを使いながら、また活動の場とされている、
石川県・金沢での研究の内容を説明されました。
(国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット所長)


講演はいきなり英語で始まり、
”I love Yokohama , I love food,music,ocean and port is very wonderful. So I came here・・・ 前に座っている年配の方々が「こんなはずでは・・」とぽかーんとしていると、「やっぱり、日本語で話します、郷に入れば郷に従えですから・・」とそれからは流暢な日本語になりました。


   

   
                      

 講演内容です

 平成22年11月30日(火)  横浜市 生物多様性 事例発表会

横浜開港記念会館 ホール


       

        
特別講演  「里山・里海の可能性について」


    国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット所長 
 
                     
Ann McDonald
   

                      




私はカナダ出身です。1991年、ブリティッシュ・コロンビア大学、アメリカ・カナダ連合大学で、
日本語を勉強しながら出版社で仕事をしていました。

そして、海と陸のボーダーに住んでいる人の生活を取材しようと思い、
「ダイハツミゼット」を購入
し、車で寝泊まりできるように改造しました。経済的にそれほどの予算がありませんでしたので、
ボーダーで生活している方々の1日のサイクルを細く長く取材するための方法でした。

                      



日本列島はとてもおもしろい国です。流氷が流れてくる北海道の極寒から、亜熱帯の動・植物が
生息している沖縄まで多様性に富んだ国で、
生物多様性を学ぶのに適しています。

                      



2007年11月から、さまざまな気候変動の中で食料生産に従事している方たちの取材を通して
「陸と海をセットにして考える」というコンセプトのもとに日本列島を駆け巡っています。

                      


国連大学では、環境問題を考える時、地球的規模からだけでなく
ローカルからも探る必要がある
と考えています。そして2008年4月、石川県金沢市に日本初のオペレイティングを開始しました


横浜国立大学とも連携し、地域的にはローカルからローカルへ、またローカルからグローバルへ
と行動範囲を広げながら共同活動も行っています。




里山とは昔、森林のような手つかずの自然を人が利用しやすい形に変えていった自然のことを
いいます。そこでは木の実や山菜やキノコを採ったり、燃料や肥料に使える薪や落ち葉を集め、
お風呂を沸かしたり、ご飯を炊いたりするのに使っていました。

また、子ども達の遊び場になったり、地域の人たちの憩いの場としても利用され、生活を楽しむ
場所として利用されています。

しかし、今、日本ではその里山が減少しつつあります。私が日本で最初に勉強したのは
口述歴
史学
で、明治から1990年代の間に人々の暮らしがどう変わっていったのかを、長野県の黒姫
町でお年寄りに聞いていきました。自然と共に暮らしてきた明治生まれの方達の貴重な経験は
とても参考になりましたが、その知識が伝承されずに消えていってしまうことがとても心配です。

私は
持続型社会を形成するためには、過去と現代を結びつけ、古いものを生かし、現在のもの
と融合させていくことが重要であると考えています。




                 
                             
   YAHOO 地図から

                        

この写真は能登半島の石川県輪島市町野町にある金蔵(かなくら)という里山です。
※ 日本の里・百選に選ばれています。     にほんの里100選  
                        


現在は
高齢化・過疎化が進み、森林の利用が徐々に縮小されています。このままでは、この地
域に住んでいる日本人だけでは里山としての持続は不可能です。そこで私は第1次産業に従事
していただくために、外国人の方にも参加してほしいということを提案します。地球市民として・・








                     

これは、
焼き畑です。現在は山形・石川・宮崎でのみ行われています。私は焼き畑農法は日本の
農業の原点ではないかと思っています。
agro-forestry(農林業)の一体化という意味で私は残す
べき農法であり、保全して行くための運動が必要ではないかと考えています。




先日、韓国でラムサール条約の会議がありましたが、そこでNPO法人を初めとしてさまざまな組
織が日韓同士で水田決議書を作り、これが国連で採択されました。主な項目は、「人間以外の生
物の生活の場でもある
冬水田んぼregeneration(再生)して行こうというものです。私はこの日本
と韓国のコラボレーションに感動しました。


  冬水田んぼ

冬水田んぼとは、寒い冬の間も田んぼに水をはり、4000種類以上の生きものが住んでいるそれ
らの循環で稲を育てていくことです。耕すこともなく、自然の肥料だけで化学肥料は使いません。
環境型社会に適した農法です。








                 
次は、里海についてのお話です。

私は環境にやさしい海岸作りを目指して、海洋における生物対象指標を決め、また一般市民・行
政とも協力し、
生物多様性条約機構の事務所においてレポートの作成をしています。


現在の沿岸地域は陸上の人間活動が大きく影響しています。私たちは海に何を流しているのでし
ょうか?多かれ少なかれ、雨に流された農薬・肥料が海に流れ込んでいると考えられます。昔は、
海と陸はリンクして生活していました。今こそ、
paradigm shift(パラダイム・シフト 対応策の転換
が求められています。




また、一方では里海を持続するためには、ある程度の科学技術が導入されることも必要です。




             
 ここで、おもしろいお話を一つ紹介します。


能登半島の輪島から北へ50kmほど行ったところに、
舳倉(へぐら)島という小さな島があります。
車は警察署と医者しか持っていません。自動販売機は島全体で1台のみです。

ここでは、昔から
海女さんによる漁が行われています。生活していくための大切な仕事です。
そして、漁獲量を増やすために
水中眼鏡の導入を相談しました。ほんの少し購入し、交替で使い
ました。よく見えて漁が楽になりました。

次に
ウェットスーツの使用を考えました。しかしこれもほんのちょっと購入し、一人は上だけ、もう
一人は下だけと、片方のみの使用で凌ぎました。活動がスムーズになり、しばらくしてから両方
使えるようになりました。

今度は
ペラ(足ひれ)を使ってみようということになりました。ペラも初めは片方だけの使用です。
しかし両方使ってみると深くまでもぐれます。大海女(ベテランの海女さん)は25mくらいもぐれま
す。29mもぐったという記録もあります。

以前に比べると漁獲量は格段に増えていきました。そしてとうとう酸素ボンベを使ったらどうかと
いう話になりました。皆で相談しました。


出した答えは、
NO でした。「これ以上捕ったら自然界を破壊してしまう」がその理由です。
trade off(トレイド オフ)という言葉があります。より必要なものとの交換を意味しますが、彼らは
酸素ボンベと海洋資源を交換しなかったのです。

このように、技術を導入することによって、予想される結論を議論する。そしてそれが自然を壊す
ものであるならば、それは拒否されるのです。


海に限らず、すべての
生態系を保全するための考えとして非常に参考になるのではないでしょう
か。





                   平成23年4月15日(金) 読売新聞より



東日本大震災からの復興を目指す宮城県気仙沼市の姿をドキュメンタリー映像に残そうと、被災地の撮影を続けるカナダ人女性がいる。

来日して20年間、日本の漁村の研究を続けてきた国連大学の研究者、アン・マクドナルドさん(45)。変わり果てた“第二の故郷”の姿に心を痛めながらも、
「再起しようとする人間の力強さを記録に残したい」と漁業関係者にインタビューを重ねている。

「まるで戦場のよう」。今月12日、いまだに水の引かないJR南気仙沼駅近くの広場で、マクドナルドさんは立ちつくした。魚と重油の混じったような臭いが満ち、路肩に幾重にも積まれたがれきが散乱する。「
私にとって大切な場所。惨状を見るのは悲しいが、それでも目を背けてはいけないと思う」

現在は、環境問題を研究する国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット所長を務めるマクドナルドさんが来日したのは1991年。全国の漁村を巡り、そこに生きる人々の暮らしを研究してきた。

これまで訪れたのは北海道から沖縄県まで2000か所以上。
「自然の脅威に敬意を払いながら、海との共存を続ける漁民の強さにひかれた」という。今は金沢市に住むが、97年〜2008年まで宮城県で暮らしていた。

今回の震災では、漁村研究の中で知り合った友人も安否が分からなくなっている。「漁村や漁港の活気に満ちた雰囲気が好きだった」というマクドナルドさん。それでも、
「ここからどう復興していくのか伝えることで、内外に支援を訴えられるのでは」と撮影を決めた。

撮影場所は、カツオやサンマの水揚げが日本トップクラスの気仙沼。最初の撮影となる今回は12日から3日間、被災したカキ養殖や水産加工会社の映像を撮影すると共に、漁協組合長や観光業者、商工会議所などにインタビューした。


                 
                
                            
 読売新聞より












 2010年11月25日

                                     

 理研・横浜研究所 設立10周年記念講演会


開港記念会館で「理研・横浜研究所の設立10周年記念講演会」が開催されましたので参加してきました。
野依理事長の開会挨拶に続き、来賓挨拶として林文子・横浜市長を初めとして多くの方が祝辞を述べられました。

そして、記念講演の先陣を切って、理研顧問の和田昭允(あきよし)先生が、
「ゲノム研究の10年」として、DNAの簡単な解説や、DNA自動解析装置(シーケンサー)が導入されるまでのご苦労、そして生命と物質の関連性などを熱弁されました。

最後に
横浜サイエンスフロンティア高校の紹介もされました。和田サロンの様子や科学誌「ネイチャー」に紹介されたこと、大学や企業の研究機関とのつながりなどを述べられて、周りからの期待が非常に大きいことを強調されていました。


 プログラム


                                                               

 13:30〜13:40           開会挨拶  理化学研究所 理事長      野依良治
 13:40〜14:00                       来賓挨拶
 14:00〜14:30   記念講演:ゲノム研究の10年  理化学研究所 研究顧問  和田 昭允
 14:30〜15:30        記念講演:ライフサイエンス研究の未来と夢


 名古屋大学 生物機能開発利用研究センター教授       芦苅 基行

 慶応大学医学部 教授    小安 重夫

 理化学研究所 オミックス基盤研究領域 特別研究員     長谷川 由紀
 15:30〜15:40                      休憩
 15:40〜17:20                パネルディスカッション


 「ライフサイエンス研究の未来と夢を踏まえて 理研横浜研究所の役割

 「サイエンスと社会のつながり ”健康”に貢献するサイエンス


                パネリスト

 横浜市大大学院生命ナノシステム科学研究科教授    西村 善文

 理研免疫・アレルギー科学総合研究センター長       谷口 克

 理研ゲノム医化学研究センター長               篠崎 一雄

 理研オミックス基盤研究領域長                林崎 良英

 理研生命分子システム基盤研究領域長           横山茂之

                                  他 5名
 17:20〜17:25     閉会挨拶  理化学研究所 横浜研究所 所長    大熊 健司



 野依理事長

                                                              

スウェーデンのストックホルムでまもなくノーベル賞授賞式が行われますが、私の46年近い友人である
根岸・木村両先生が、今回ノーベル賞を受賞されたことは非常に喜ばしいことであります。

最近10年間で6名の日本人が受賞したことは近年の日本科学の躍進ぶりを示すものであって、サイエ
ンスは
サステナブルでなければならないことを実感致しました。

しかし、過去日本の受賞者15名のうち、5名は頭脳流出組です。我が国の研究機関も国際水準に合わ
せていく必要性があります。例えば研究開発費でいえば、日本はアメリカ・フランスの3分の2、イギリスの
2分の1で、これは基礎科学が国家・国益につながっていくのにじゅうぶんとは言えません。

基礎科学は
人類の根源であり、永遠の文化であり、卓越した科学技術に基づいたイノベーションとなるも
のです。

現在、理研は研究において高い水準を保っていますが、これからも個人知→組織知→社会知という段階
を踏み、幅広いセクターと連携して各部門でそれぞれの目的を達成できるように邁進していきたいと考え
ています。







 林 横浜市長

                                                              

このたびは理研・横浜研究所設立10周年、おめでとうございました。野依理事長を初めとして各方面の
先生方のご尽力のおかげで、理研は
先端科学の発展に大きく寄与されていると実感しています。

現在、世界では科学技術の競争が激化しています。そのような情勢の中で、日本の底辺拡大のために
理研は特に生命科学の分野において、横浜市立大学、同大学院や横浜サイエンスフロンティア高校等と
連携し、
科学普及の為にさまざまな催し物を通して地域に多大な貢献をされています。

サイエンスは人を素直に感動させる力があります。これからの日本を担っていくであろう横浜の子ども達
に常に
夢を与える機関であってほしいと願っています






 和田 研究顧問


  

まず始めにこのスライドをご覧ください。夜の地球の写真です。アメリカ西海岸、EUの一部と共に
横浜が輝いています。これは
サイエンス都市ヨコハマの あってほしい姿を象徴しています。




  

”生命とはなにか?”は難問です。上のスライドは
生命の巧妙な重層構造を表しています。10mを
遙かに超える巨木、2メートル弱の人類、マイクロメートルの細胞、ナノメートルの分子、オングスト
ロームの原子まで、10桁以上サイズの違う階層の積み重なりがあります。




  

客観的な立場から生物を見ると、太陽や地球などの天体、台風や雲といった気象現象、また鉱物
などと全く同列な
”物質の特殊な状態”です。地図で例えると「生命世界」は、もはや島ではなく、陸
続きとなり、物質と生命はつながってきたといえます。




  

私が1987年に「ネイチャー」に発表した
「高速自動DNA分析」と題する論文に対する評論です。

                    
 日本語訳

「21世紀において我々は次のことを予見します。スーパーDNA解析センターは、いくつかの国に
おいて数世紀にわたって設立され、大規模な素粒子加速器、巨大望遠鏡、宇宙探求において遙
か彼方の天体への到達など、現存するシンボルと並んで、人類の知の探求における国家努力の
シンボルになるであろう。」


ところで、2002年1月4日の新聞に「遺伝子の人とチンパンジーの違いはわずか1.23%」とい
う記事が掲載されました。塩基の割合で数えると100文字で1文字くらいです。」そして数日後の
新聞におもしろい川柳が紹介されました。  
※ 「チンパンジー、ぐっと態度が大きくなり・・」




 
   

学術教育・研究機関と社会とはは常にサイクルで結ばれています。人材の交流、社会から与えら
れた課題に対する学術研究・問題解決など幅広い応用展開によって、日本だけでなく世界の産業
の発展に貢献することができます。




     

私がスーパーアドバイザーをしている
横浜サイエンスフロンティア高校です。毎週土曜日に「和田
サロン」を開催し、高校生諸君と科学談義をしています。

「ネイチャー」にも紹介され世界の注目を集めました。ここから世界に羽ばたくような若い科学者が
育ってくれることを願っています。




          ※ 塾長注  ヒトとチンパンジーは同程度なのか?


遺伝子の数が多い方がより高等な生物であるというわけではありません。今回もパネリストとして出席されていたオミックス基盤研究領域長の林崎先生の研究によると
「高等な生物ほどRNAの機能が多い」ということです。


RNAの中には
ncRNA(ノンコーディングRNA)といって、タンパク質をコード(指定)しないものがあって、このncRNAは、DNAの設計図から転写・翻訳と進むプロセスの中でタンパク質合成をコントロール(管理・抑制)するために実にさまざまな仕事をしています。


その一つとして、
RNAi(RNA干渉)という現象があります。細胞内ではさまざまなタンパク質が生み出されていますが、中には生物が生きていく上で不利になるようなタンパク質も作られることがあり、それによって病気にもなりますから、それらのタンパク質が体内ではたらくのを防ぐことが治療にもなります。(自分が知らない間に病気の発症をおさえてくれます)


siRNA(small interfering RNA)というncRNAは、有害なタンパク質を作ろうと侵入してきたRNAからタンパク質を合成することを緊急停止させることができ、これが細胞内の防御システムになっています。


また同じようなはたらきをもつncRNAも見つかっています。
miRNA(microRNA)と名付けられていますが、siRNAと同様にRNA干渉を起こすncRNAでごく短いためmi(マイクロ)がついています。今ではヒトのncRNAの中にも200〜250個程度のmiRNAが含まれると想定されています。


この他にも、タンパク質の合成の促進や、抑制を受け持っている物質として、
転写因子というタンパク質がありますが、実はこのタンパク質に指令を出しているのもncRNAなのです。このようにRNA、特にncRNAはさまざまな機能を持っており、RNAによって生物が複雑な機能を持つことを可能にしていると言えるのです。



そこで、遺伝子の定義は何であるかということを考えた場合、現在は”タンパク質をコード(指定)する”というのがはてはまると思いますが、最新の研究の成果により、新しく、遺伝子の定義を
何か有効なはたらきをするものを作り出す,または制御する部分”とした場合、ncRNAがそれに含まれることになり、ヒトの膨大なncRNAをプラスした場合、今の23000個という数よりも大幅に増えることになります。


ショウジョウバエの遺伝子は13000、線虫は19000、植物のシロイヌナズナにいたっては、ヒトより多い25000あります。しかし将来、遺伝子の定義が書き換えられたら、ヒトの遺伝子は他の動物・植物よりも大幅に増えるはずです。



日本の少し前の首相が、「ヒトの遺伝子は、ハエの2倍か・・」と嘆いていたことがありますが、これからはガッカリしなくてもすむかもしれませんね。

                           追記


最近の研究で、池や沼などに住むミジンコがヒトより8000個も多い31000個以上の遺伝子を持
っていることが、東京薬科大学やアメリカ・インディアナ州立大学などの国際研究チームによって
確認されました。

これまでに
ゲノム(全遺伝情報)が解析された動物の中で最も多い数です。ミジンコが持っている
遺伝子のうち、3分の1以上は、他の生物では見つかっていない新しい遺伝子でした。

ミジンコは水中に汚染物質が入ったり、酸素濃度が下がったりすると、体を変化させて耐えます。
また、魚などの外敵が現れると頭を巨大化させたり体に突起物を作ったりして身を守ろうとします


新しく見つかった遺伝子は、ミジンコのこうした変身に役立っている可能性があるといえそうです。

以上のことが、アメリカの科学誌”サイエンス”で発表されました。











   

 10月30日(土) 明治大学・生田キャンパス「地球温暖化問題」


明治大学 理工学部 教授

北野 大(まさる) 教授


   
   
   


          講義の中から主なものを抜粋してみました。



          
(1) 気候変動問題の起源

@ 19世紀半ば、フランスのFourierが、温室効果ガス、特に二酸化炭素と水蒸気が
地表を温暖化すると主張

A 19世紀後半、スエーデンのArrheniusが産業革命において工場から発生した二酸
化炭素濃度が増えると地表面温度を上昇させるという仮説を発表

B 宮沢賢治が「グスコーブドリの伝記」の中で書いた、冷害による飢饉で両親をなくし
、森を追われた少年ブドリがカルボナード火山島が爆発したら、二酸化炭素が大気中
に撒き散らされ、世界の平均気温が5度くらい暖かくなるだろうというくーボー大博士の
話を聞いて、自ら犠牲となって大噴火を起こさせ飢饉を救うという話
(実際は一緒に噴き出す粉塵の影響の方が大で、寒冷化する)



         
 (2) おもな温室効果ガス

@ メタン         水田・家畜・廃棄物・炭鉱

A 亜酸化窒素     肥料・燃焼

B フロン        冷媒・洗浄剤など

C 二酸化炭素     燃焼




         
 (3) 日本の部門別CO2排出量 (2006年度)

@ 産業部門         30.5%

A エネルギー転換部門  30.4%

B 運輸部門         19.4%

C 民生(業務部門)      7.9%

D 民生(家庭部門)      5.0%




          
4)  主要国CO2排出量 (2007年度)

@ 中国        21.0%

A アメリカ      19.9%

B EU(15ヶ国)   11.0% 

C ロシア        5.5%

D インド        4.6%

E 日本         4.3%


上位5ヶ国で全体の62%を占めています。




          
(5) 世界のエネルギー資源

   確認可採埋蔵量  確認可採年数
 石油  1兆2082億バレル  41年
 天然ガス  181兆立方メートル  63年
 石炭  9091億トン  147年
 ウラン  474万トン  85年




          
(6) エネルギー資源として原油の備蓄
 

国家備蓄   88日分(5098万kl)   民間備蓄  74日分(4087kl)




     
(7) IPCC第4次報告 地球温暖化による気候や生態系への影響

 気温  1990年に比べ2100年までに1.4℃から5.8℃高くなる
 海面水位  1990年に比べ2100年までに18cm〜59cm上昇する
 異常気象  集中豪雨の増加、夏期の渇水の増加
 生態系  陸上・淡水での生態系崩壊、サンゴ礁への影響
 人間社会  熱波による高齢者の死亡、感染症の拡大




           
(8) 温暖化対策

@ CO2濃度の減少、植林によるCO2吸収

A 回収、貯留

B 化石燃料使用量の削減






 お知らせ

8月につくばのKEK(高エネルギー加速器機構)で開催されたグローバルフォトウォークの優秀作品の展示が、世界の素粒子物理の広報ネットワークであるインタラクションズのウェブサイトで公開されています。ご覧になって見てはいかがでしょうか。(入賞はしませんでしたが私の作品も載っています)

Interactions.org - Particle physics, high energy physics, news and resources

KEK--Hiroaki Nakayama Flickr - Photo Sharing!
KEK 高エネルギー加速器研究機構


10月10日(日)  鶴見川河口の自然観察


                    スケジュール

   8:30  受付開始   横浜サイエンスフロンティア高校

   9:00  開会式

   9:15  オリエンテーション  鶴見川河口で生き物採取・観察

  10:45  電子顕微鏡による生き物観察

  11:40  観察結果のまとめ  グループごとの発表  質疑応答

  12:50  閉会式  解散 


   
 JR鶴見小野駅より徒歩2分です。 指導は、小島先生と理科調査研究部の皆さん
   
各班ごとに行動予定と目的の確認をします  これから対岸に向かいます。
 
 鶴見川河口です。すぐ先は海です。  投網(とあみ)で捕獲します。
   
 貝殻を集めています。  フジツボがいました。
   
 干潟でのミニ授業  潮鶴橋を渡って高校側に戻ります。
   
 昨日仕掛けておいた網です。  小さなカニがいました。
   
 魚も捕れていました。  ハゼです。
   
 もう一つの網を調べています。  エビが入っていました。
   
調べたことのレポートを作成しています。 各班ごとの発表です。


                      塾長の感想        


皆さんは最近、新聞や雑誌、テレビ・ラジオなどのメディアで
「生物多様性」という言葉を耳にされていることと思います。実際、私たちの身の周りだけでなく、現在地球上には実に多種多様な生き物が存在しています。そして発見されていないものも含めると1000万種以上ともいわれるこの生き物の世界は持ちつ持たれつ、さまざまな生き物たちが関わり合いながら暮らしています。

今日は鶴見川の河口という身近な場所での生物観察でしたが、川の中や顕微鏡をのぞき込んでいる皆さんの顔つきは実に本当に生き生きとしていました。でも一番はつらつとして楽しそうだったのは、指導者の小島先生でしたが・・

理科(生物)の勉強では、生き物をよく見つめ、「どうしてこんな形をしているのだろう?」「どんなものを食べて生きているのだろう?」など、
考えることを楽しむことが基本です。そして、水中の小さな生き物にも命があり、私たち人間の仲間だということに気がついていきます。


帰り際に、本日参加した6年生の男子生徒に、「今日捕ったカニはどうするの?水槽で飼うの?」と聞いたら、「あとで鶴見川に返しに行く。かわいそうだから・・」という返事でした。







     10月2日(土) Miraikan フォーラム2010

           
 科学技術がひらく未来


   
 JST(科学技術振興機構) 科学未来館 中村桂子館長(JT生命誌研究館)の講演



                       基調講演 

         毛利 衛 (日本科学未来館 館長)

           
 「文化としての科学技術」
 

               
 講演会

   1.
クローディ・エニュレ   (フランス 科学都市博物館 館長)

            
「地球環境と科学技術」

   2.
ブルース・M・アルバーツ(アメリカ science誌 編集長)

        
  「人類発展のための科学技術」

   3. 
リ・シャンヒ       (韓国 國立果川科学館 館長)
 
       
「社会のサスティナビリティーのための科学技術」

   4. 
中村 桂子       (JT生命誌研究館 館長)

         
 「生命誌から見た科学技術」

                
ディスカッション



            毛利 衛(もうり まもる)氏  基調講演(一部)   

               (未来館館長  宇宙飛行士)


 
いま、私たちは未来について考える必要があります。

「人類の存続」に脅威を与える地球温暖化や生物多様性といった地球規模の問題は、同時に私たち一人ひとりの生活に影響する「個人の存続」の問題でもあります。

地球規模の問題を解決するには「科学技術」を用いる必要があります。科学技術は、特別のものではなく、政治、経済、芸術などの活動と同じように「より良く人間社会が生き延びるために獲得した知恵のひとつ」です。

例えば、地球気候変動や生物多様性の現象問題についての本質は、今、対策しなければ手遅れになるという、はっきりと見えない将来への課題です。

人類共通の価値判断は科学的なものの見方から生まれます。この客観的な価値判断に基づく新しい知恵こそが、「文化としての科学技術」なのです。

これからは、科学技術を文化としてとらえる運動を世界的に広める必要があります。「個人を尊重しながら人類が持続的に生き残る方法を探る、そのために科学技術はある。」ことを社会と共有することが、次の世界の科学館の役割になると私は考えます。

そして、世界全体を豊かにするために、日本が果たすべき役割について一緒に考えましょう。




         中村 桂子(なかむら けいこ)JT生命誌研究館・館長 講演(一部)

                  
「生命誌から見た科学技術」


科学の歴史は、大きく3つに分け分けられると思います。ひとつは「人類の歴史」です。地球上の人口は長年、平行線をたどっていましたが、産業が発達してからは急激な上昇を示しています。このままずっとこの調子で増え続けいくとは思われませんが・・

二つめは、「生命の歴史」です。生命の歴史は、「共通性を持つ多様性」として発展してきました。地球に生命が発生してから、すべての生き物は共通の歴史を持ち、人間もその中にいます。


三つめは、「知の歴史」です。科学を支える理念は古代ギリシアから存在しています。プラトンの「普遍性」とアリストテレスの「多様性」です。今の科学技術はこれを基盤にしています。そして科学技術はオープンな場所で行わなければならないと思っています。





            ディスカッション(一部)  科学の重要性と普及について


これからは環境問題への対応を真剣に考えていかなくてはなりません。自然環境のレベルを高めていくために
各国が科学的にグローバルなつながりを持って貢献していく必要があります。それが社会的な進歩につながると思います。


今、私の国では若い人たちの間に”ラップ”が流行しています。長時間続けているので「もう終わりにしたらどうですか?」といってもいっこうに止めようとしません。ラップが心底好きなのです。愛しているのです。

私は、科学もラップみたいにならないものかと思っています。他人から押しつけられてするのではなく、「
自分が好きだから、面白いから、興味があるから科学を勉強する」・・人から「勉強を止めろ」と言われても絶対に止めない。これが私の理想です。


私も同感です。そして「そのような子どもたちが増えるにはどうすればよいのか」ということを考えた場合、やはり啓蒙活動が必要であると思います。子どもたちがわくわくするような、興味が湧くようなプロジェクトの開発をしていかなければなりません。

若者たちが、見るだけでなく実際に体験でき、熱意をもって新しいものを生み出していけるような施設・システムを提供していく必要があると思います。それには資金が必要です。国の援助だけでなく民間の協力も欠かせません。現在でも、科学の普及の貢献に、また将来への投資として、多くの企業が博物館・科学館の建設や諸々の研究のために経済的な援助をしています。

また企業だけでなく、
国民や国全体が科学の普及を文化として位置づけていく必要があると思います。sustainable(環境を破壊しない持続可能な)社会が実現できるように、皆さんで協力していきましょう。








  9月29日(水) 第7回 おもしろ実験・科学工作指導者セミナー 


   
 本日は実験の発表会です(12名参加)  文部科学省・西潟千明先生の全体講評




                  西潟先生から受講者の皆さんへ


皆さん、今日はおつかれさまでした。多くの方の実演を拝見して新しい発見もありましたし、私自身勉強になることもありました。入念な準備や、各自工夫した実験もあり、それぞれの方が個性を十分に生かした発表会になりました。


さて、今の地球は、こわれやすく、とけやすく、よごれやすくなってきています。しかし、これからはこのような地球環境問題に対してしっかり向き合っていかなければなりません。

そのために、今の子どもたちに必要なことは
「サイエンスマインド」の形成です。子どもたちが今回のようなハラハラドキドキするようなおもしろ実験に触れて、また科学工作などを通じて「科学的な思考力」を身につけてほしいと願っています。

また、科学実験指導者とは、「科学の実験を安全に行える人、子どもの目線で子どもと一緒に感じ、実験の面白さや不思議さを感動的に演出して、
子どもの好奇心を科学の探究にかき立てられる人である」と考えています。

神奈川は実験の催し物の回数では全国でもトップクラスですが、さらにこのようなセミナーがこれからも数多く開かれ、また多くの方にお手伝いをしていただければと思います。  

                   本日はありがとうございました。








9月23日(祝・木) 


           ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム


              「科学は人類に何をなしうるか」


              昭和大学旗の台キャンパス 上條講堂


      主催 : 読売新聞社

      後援 : 外務省、文部科学省、NHK

      協賛 : トヨタ自動車、清水建設、住友化学、明治乳業、昭和大学


 



                      タイムテーブル

13:00  主催者挨拶  老川祥一 (読売新聞東京本社社長・編集主幹)

       歓迎挨拶   小口勝司 (昭和大学理事長)


13:10  基調講演  
2008年ノーベル生理学・医学賞
            
 「子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウィルスの発見」

           
ドイツがん研究センター名誉教授  ハラルト ツアハウゼン氏



       基調講演  
2001年ノーベル化学賞
             
「キラル触媒による不斉水素化反応の研究」

            
理化学研究所理事長    野依(のより) 良治氏



15:00  パネル・ディスカッション〜質疑応答

                  パネリスト
  
ツアハウゼン先生、野依先生、中江晴彦・住友化学役員、片桐敬・昭和大学学長


    コーディネーター  田中秀一  読売新聞東京本社・医療情報部長



  野依先生


                  科学の価値について

科学研究とは、果てしなく続く「知の旅」である。目的地への到達よりもさまざまな出会い、よい旅をすることに大きな意味がある。
優れた研究は有為の人を育て、また社会にも貢献する



                
  理科教育について

人は生まれながらにして科学者である。子どもたちは、花が好きで、虫に興味を持ち、「空はなぜ青い?」と思う。成長するにつれて、しっかりした人生観を持ち、まっとうな価値観を持って生きてほしい。

文化は全ての人々の心のよりどころとなるべきであって、科学は文化の大きな要素の一つである
論理・情緒・言語という面で科学は非常に重要な役割を果たしている。指導する立場の者もこれを十分に認識しておかなければならない。


また、教育課程において、理科を学ぶことの重要性を理解する必要があり、現在の大学入試制度においても、理科という科目の位置付けをよく考えてみてはどうか。

これからの科学において、人類にとって重要な存在となっている物理・生物・化学などを一緒にして、
科学全般にわたって融合的なシステムを築きあげていきたい





 ツアハウゼン先生


学生の皆さんが、科学を好きになってくれるように努力していきたい。ドイツには「ジュニアグループ」という組織があり、そこでは若い人たちに十分な経験を積んでもらっている。また十分な資金が必要になってくるが、積極的に海外での研究も応援している

若い科学者の人たちには、論文を作成する時間をできるだけ短縮し、専門誌での発表を奨励している。

「これからの科学」ということについては、”基礎研究”を強調したい。また、
若い科学者達には将来、独立できるような業績を残し、社会において輝ける存在になってほしいと願っている


   










 9月18日(土)


      ゲノムの調べ方・ゲノム研究の暮らしにおける貢献

  理研オミックス基盤研究領域・リーダー ピエロ カル二ンチ先生


川崎図書館で開催された「第2回・サイエンスカフェ」に行って来ました。今回はゲノム(それぞれの生物がもつ遺伝子情報のすべて)についての講義でした。

DNAシーケンサー(塩基配列を調べる装置)の進歩で、ゲノムをより速く、低コストで調べることができるようになり、これによって生物の生命維持や病気の原因などに関して重要なことが徐々に明らかになっています。

講師は、理研横浜研究所・オミックス基盤研究領域・ゲノム機能研究チーム・チームリーダーの、
ピエロ・カルニンチ(イタリア出身)先生で、前半は、現在の私たちの暮らしにゲノム研究がどのように役立っているか、またRNAについての最新情報等を流暢な日本語で解説していただきました。

後半の1時間は、質疑応答の時間です。私は先生の「ナノグラムレベルのRNAから遺伝子発現をとらえる新解析法」に関するものと、「RNA新大陸」の中で、
ncRNA(ノンコーディングRNA)の重要性についての質問をしましたが、二つとも丁寧に答えていただきました。

その他にもユニークな質問が数多く出て、1時間があっという間に過ぎていきました。土曜日の午後に「サイエンスカフェ」らしい時間を過ごすことができました。



   
 ピエロ先生  おなじみのDNA二重らせん構造
   
 各個人塩基配列の違いで薬の効き目も異なります。  RNAの解析によって細胞の状態を知ることができます。
   
いつ、どの領域を転写するのか?それをコントロール
している物質は、「転写因子」と呼ばれるタンパク質です。
 プロモーターにRNAポリメラーゼが結合します。
   
 アルツハイマー病も将来治せるかもしれません。 遺伝情報によってオーダーメイド治療が可能になります。
 

                     

 県立川崎図書館から、「ゲノムの本」の推薦図書紹介でいろいろな本が書いてありましたが、本日の講師のピエロ先生が薦めた本は、 「教科書ではわからない遺伝子のおもしろい話」(林崎良英 著  実業之日本社 刊)でした。

偶然ですが、この本は学院の「塾長の推薦図書」の書籍コーナーで2番目に紹介しているものです。概要はトップページからクリックしていただくとわかります。ご覧になって見てください。









9月4日(土)  川崎図書館  第1回 「サイエンスカフェ」 

   

         免疫療法開発研究の最前線

      「リンパ球からiPS細胞をつくる!」


 
理化学研究所 横浜研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター
     
免疫発生研究チーム リーダー 河本 宏 先生


   
病原体をやっつける方法として、まず食べると
いう殺し方があります。自然免疫の主な仕事は
これです。顆粒球やマクロファージです。
血液中の毒素やウィルスのような小さな病原
体は、自然免疫ではカバーしきれないので、
体を守るために獲得免疫が発達しました。 
   
食細胞の一種の樹状細胞は取り込んだ病原体
の情報をヘルパーT細胞やキラーT細胞に伝え
、抗体を作ったり感染細胞を殺します。
リンパ球のすごいところは、どんな物(抗原)で
も攻撃できる(多様性)と、それなのに自分自身
は攻撃しない(自己寛容)ことです。 
   
体細胞に4つの遺伝子を組み込んで作ったiPS
細胞を分化させたリンパ球の中で、ガン細胞を
攻撃できるのは、少ししかありません
ガン細胞を攻撃できるリンパ球を選び出し、成
熟リンパ球としてもう一度iPS細胞をつくり分化
させると、全てがガン細胞を攻撃します 
   
       とてもわかりやすい説明でした。 免疫監視(ガンが小さいうちに免疫系が排除し
てくれる)をかいくぐって増えたガン細胞の抗原
に対して免疫反応が働けば、ガンを治癒できる
可能性があります。





9月11日(土)  宇宙教育指導者セミナー 


    
 
講演1  宇宙教育について

      
中村 日出夫   JAXA 教育センター長

 講演2  日本と世界の宇宙開発 最新動向

      
中村 全宏    JAXA 経営企画部企画課主査

 
オリエンテーション

     
 林 正之     NHKアイテック 海外事業部

 
教材実習  

      
江崎士郎     尾山台中学副校長

 
活動プログラム作成実習
  
      
高橋信雄     高島第三中学教諭


   
 早稲田大学理工学部・西キャンパス  宇宙教育の理念と科学リテラシーの育成
   
 「はやぶさ」の任務と最後の大気突入  科学リテラシーの概念
   
 宇宙と実生活  午後は教材を用いての実習です。
   
 マシュマロが入っています。  中を真空状態にすると・・・







  8月22日(日) 実験・科学工作指導者セミナー 4回目


午前は、研修室2で「実験の安全配慮義務と訴訟例について」という講義があり、文部科学省・科学技術政策研究所・上席研究官の西潟千明先生が担当されました。具体例を交えてのお話で、3時間があっという間に過ぎていきました。

お昼をはさんで、午後からは科学体験室で「おもしろ実験」の実習と実験器具の作成を行いました。今日は全員がいろいろなアルコールロケットを作成し、ロケットの大きさやアルコールの量を加減して、飛び方の違いなどを観察しました。



   
 午前は西潟先生の講義  野毛はお祭りでした(昼休みにて)
   
 アルコールロケットの制作  皆さんの作品です。












8月7日(土) 


茨城県つくば市の「高エネルギー加速器研究機構・KEK」で開かれた”グローバルフォトウォーク”に参加してきました。

加速器とは、電子や陽子などの粒子を光速近くまで加速して高いエネルギーの状態を作り出す装置です。この研究は物質の起源を宇宙誕生時まで遡って探求し、また物質の成り立ちや生命体の活動の仕組みを解き明かしていきます。



   
 つくばバスセンター5番乗り場です  約20分で到着しました
   
 広大な敷地です  入り口です
   
 等身大の小林誠先生です  重力による空間のゆがみが体験できます
   
 宇宙誕生時の粒子と反粒子です  物質粒子と力を媒介する粒子です
   
 中性子はアップ1個ダウン2個です  原子モデルです
   
 KEKで行われている研究について  先端加速器が展示してあります
   
 加速器研究施設に移動します  つくば山が見えました









7月14日    青少年センター  科学体験室  

     
               

   
 圧力の実験です。  フィルムケースの中にバブ(入浴剤)粉末と水を入れます。
   
 ふたをしてしばらくするとふたが飛んでいきます。  瓶の中で風船を膨らませます。
   
 空気を抜いていきます。  風船が大きく膨らみます。
   
 風船の間にドライヤーをあてると  圧力が減少して風船がくっつきます。
   
 爆発の実験です。  水素と酸素を2:1の割合で混ぜます。
   
 吸引ポンプでチューブの中に入れます。  発火させると爆発音と共にチューブが青白く光ります。
   
 エタノールをビニル袋に入れて空気を抜きます。  お湯で温めるとすぐ膨らみます。
   
 水素のシャボン玉を作っています。  橙色の炎をあげて穏やかに燃焼します。


これまで学院でもさまざまな実験をしてきていますが、さらに科学の楽しさや驚き・感動を体験していただけるよう工夫していきたいと思います。

     そこで、1つ問題を出します。(第1回目のセミナーから)


 問題


 7月7日 青少年センター 研修室 2


 
膨らませていない状態で約30cmある二つの風船を、ブロアー(勢いよく空気を噴出する道具)を使って一つは約100cm一つは約50cmの大きさまで膨らませ、根元の方をクリップではさむ。この二つの風船をクリップが外れないように口元をアクリルパイプにかぶせ、クリップを外すと二つの風船の大きさはどう変化するか?


1.同じ大きさになる。

2.大きさが逆転する。

3.大きい方がより大きくなり、小さい方はより小さくなる。 

                                             答えは次の写真の下にあります。


                
                                       実験の一部です

   
 レインボースコープ(制作途中)  蛍光灯にかざすと七色の虹が見えます
   
 CDホバークラフト(制作途中)  テーブルの上を滑っています
   
 風船に竹ひごを刺しても割れません  風船に火をあてても割れません
   
 温風をあてるとどんどんくびれていきます  水風船をフラスコの中に入れる実験です






 風船の問題の 正解は 3です。


 
風船を膨らませるときに、小さいときの方が大きな力が必
要なことは、皆さん経験されていると思います。それは小
さいときの方が空気を押し出す力が強いからです。よって
小さい風船の中の空気が大きい風船の中へ移っていきま
す。






 7月11日(日) 学院の授業でも試してみました。


   
 クリップ・風船・バルーンポンプ・アクリルパイプ  これから直径60cmまで膨らませます。
   
 こちらは50cmまで膨らませました。  アクリルパイプで連結します。
   
クリップを外しました。青少年センターで
行ったのと同様の結果になりました。
学院では、応用実験として青色の風船を
最大限度の90cmまで膨らませました。 
   
 黄色い風船は50cmにしました。  アクリルパイプに連結しました。
 
青が小さくなり、黄色が大きくなりました。
1回目の実験と逆の結果になりました。
 

                                   

 2回目の実験の考察
限度ぎりぎりまで膨らませたので、青い風船の中の空気圧が急激に上昇しました。
そして黄色の風船内の気圧を上回り、青から黄色に空気が徐々に移動して黄色い
風船が膨らみました。あらかじめアクリルパイプの中に線香の煙を入れておけば
空気の流れが分かったかもしれません。次回試してみましょう。